それは別れの挨拶というより懺悔そのものだった。


 私はこの件でとにかく落ち込んだ。別れは本当に突然で、だけどこれ以上もうこんな悪いことは起きない。今が一番下。ここからはただ上がるだけ。そう信じて毎日を過ごした。

 まだ残りのツアーをやりきらなきゃいけないしそんなに落ち込んでばかりもいられなかった。

 だけどこれにはもっと深い意味があって、相馬さんが人生をかけてまで守りたかったものに気付くのにはまだ少し時間がかかった。




 八月、外は本格的に暑くなり昼間は蝉の鳴き声が、夜には蛙の鳴き声が鳴り止まない。


 そんな夏本番に私達は北海道でオーラス公演を迎えた。


 実は私は北海道に行くのが初めてでとても楽しみにしていた。


 東京よりもぐっと涼しくて広大な敷地に一本道。

 車で走らせれば都会の喧騒を忘れられる、そんな開放的な気分にさせてくれる。

 そして食べ物も楽しみにしていた。

 沢山食べたいものがあって、節制していた食事や、お酒をライブが終わったら楽しもうと少し心が弾んでいた。


「じゃあ北海道公演、これでファーストツアー全ての公演が終了する。みんな、よく頑張ったな」

 西山さんが控え室でそんな話をしだすから涙が溢れてくる。

「なんで始まる前から泣いてんねん」


「これが終わったら一段落。少し長めのオフを与える」
「えっ?!」

 聞いてるのか、聞いてないのか、寝てるのか、寝てないのか、まるで分からなかった陸が突然勢いよく声を発した。

「だから、全力で残りの力を解放してこい」
「はい!!」


 一週間。
 このツアーが終わったら一週間のオフがもらえる。

 デビューしてから初めてた。
 何をして過ごそう。レドモンもオフなのかな?

 空さんと過ごしたいな……


 自然と上がる口角、零れる笑みを堪えられずニヤニヤしてたら開演のアナウンスが鳴った。

「じゃあそろそろ開演だ」


 ただがむしゃらに走ってきた一年間が走馬灯のように甦る。


 楽しかったこと、嬉しかったこと、辛かったこと、苦しかったこと、沢山あった。

 沢山、沢山あった。


 そしてここからがまた第二のスタートライン。



 ……だと、思ってた。