「よし、じゃあ今日から三ヶ月怪我なく行きましょう」


 陸の声を合図に重なる手。


「西山さん」
「ん、あぁ」

 いつものように四つ。


「行くぞっ」

「おーーーーーー」



 沖縄から北上していきデビュー記念日に東京で集結する。そしてそのまま北海道でオーラスを迎える。

 レドモンは北海道から途中東京で合流し、南下し沖縄でオーラスを迎える。

 合同ライブのチケットは東京ドームにも関わらずプレミアムがつき、発売開始わずか一分で完売した。「VOICE」が聴けるのは東京ドームだけ。それがまたチケットの値段を高騰させた。



「五十万……」
「西山さん何見てるんですか?」
「んー? お前らのドーム公演のチケット、転売されてるんだよ」
「五十万?」
「対策はするよ」
「どんな?」
「五万五千人全員本人確認する」
「ええ?」
「そこまでしねーと」
「そうすっね」

 事務所の本気が伝わってきた。

 どんなにコストがかかっても構わない。そんな本気が伺えた。


 二ヶ月かけて北上し、ついにドーム公演当日。


 私達はデビュー記念日に集結した。

 会場の外はすごい人で、入れない子達で溢れている。

 会場の中はまだ開演二時間も前なのに



「レドモンレドモン」
「ブラモンブラモン」



 声が鳴り止まなかった。



「楓雅さん……」


 そわそわと落ち着かない感じの楓雅さん。とぼとぼと控え室から出て行った。


 空さんと目が合うと「うん」と頷かれて「ほっといてやって」そういうメッセージが伝わってきた。


「空、これ喉にいいらしいよ」

(ありがとう)

 このツアーの頃から空さんは筆談をするようになっていた。

 喉の負担を減らすために普段の会話を筆談にして本番に臨む。



「なぁ、今日の晩飯何やと思う?」
「え? わかんない……なんなの?」
「いや、知らんねん」
「なにそれ」


 陸は相変わらず机に突っ伏して寝てる。

 私達は各々いつも通りに過ごした。


 もちろんみんな緊張はしていたけれど、それを表に出さないよう普通に過ごした。


 控え室のモニターに会場内の映像、それを食い入るように見た。


「どうしたの?」
「あ、幸翔さん。たくさん人がいるなーって思って」
「え?」
「あ、いや、凄いことだなって」
「そうだね、こんなにたくさんの人が俺達のこと見に来てくれたってすごい事だよね」

「外も入られへん子めっちゃおるしな」



 開演時間が近付くにつれスピードを上げる心臓。


 すーっとゆっくり息を吸って、ふーっと息を吐いた。


「そろそろ準備して」


 西山さんのその声に楓雅さんも戻ってきた。


 始まる。