「お前、何泣いてんだよ」


 きっとお父さんは空さんのことを愛していて、だけど不器用で伝えられない人だったんだ。少し空さんと似てるけど空さんの方がもう少し、器用かな。


「だって……」
「泣くな」

 空さんはベッドの上、私の頭を空さんの胸に埋めるように包んだ。

「まー、そういうことがあるから、俺は売れなきゃなんねーの」
「うん、レドモン売れるように、私もたくさん買う」
「いや、お前ライバルだろ」

 声を出して笑われたけど、本当に買いたいって思ったのに。

「お前らがいるから競うように俺らが売れてんだよ、だからお前らが売れれば売れるほど俺らも売れるんだよ、だからお前はブラモンのために頑張れ」
「はい」

 涙を堪えながら返事をすると、埋めてた顔、顎を持たれて視線を上げられた。


「ふふふっ」
「なに?」
「顎……擽ったい……あははっ」


 聞こえないように声を殺して笑えば空さんは声を出させようとイタズラしてくる。


「やっ、だから……顎、だめ」

 擽ったくて笑い声が我慢出来なくなってるとガタンて隣から音がすると驚いて空さんの胸にしがみついた。


 そんな私のリアクションが面白いのか空さんはよくイタズラをしてくる。





「レコーディングも順調みたいだな、ライブのリハもそろそろ始めるから」

 後日、相馬さんのその声で皆の気が引き締まった。

「前回よりも曲も増えたから楽しくなりそうだね」

 そして楓雅さんの声は弾んでる。

 アルバムのレコーディングが終わり、ツアーのリハーサルが始まった。

 空さんと会える時間が減ったけど、それでも頑張れたのは空さんのあの声を聞けるから。

 会えない日はCDで空さんの声を聞いて眠りについた。

 やっぱり空さんの声は精神安定剤のようなそんな声だ。


 夏前にデビューをして、目まぐるしく季節を過ごした。

 いつの間にか窓が曇る季節になって、セカンドシングルを出して、そしてまた季節が巡り、春先、ファーストアルバムと共同作「VOICE」の同時発売の日を迎えた。



「すごいですー。やばいですー」


 大興奮の真菜さん。



「どうしたの?」
「興奮しすぎや」


「VOICEが……」


 初週で二百万枚を超えた。
 レドモンとブラモンのファンが買ってるからって倍の数字が出るとは思ってなかった。

 少なからず両方買ってくれてる人がいると思ってたからだ。

 そしてこの歌はこのまま売上を伸ばし日本歴代最高記録を打ち出すこととなる。


 こんな絶好調としかいえない階段を駆け上がっていた日々。


 だけど……


 忍び寄る魔の手はゆっくりと足元に近付いていた。