俺がガキの頃、俺の親父はすげー有名で売れっ子な作曲家だった。

 俺はあんまり家に帰ってこない親父にいいイメージがなかった。

 親父は俺の事をいつも見下してた。

「お前に俺は超えられねーよ」

 よくそう言われていた。俺は悔しかった。

 いつか親父が負けを認めるくらいのすげー奴になってやろうって思ってた。

 別の世界じゃ意味がなかった。あえて親父と同じ世界で勝負したかった。

 でも時代は巡り、音楽業界も不況の波に飲まれた。

「時代が時代だからミリオン取れなくても仕方ないよ」

 そう思われるのが癪で俺は絶対ミリオン出してやろうって思った。

 時代とか関係なく。

 俺はバンドを始めて曲作りに明け暮れた。

 インディーズ界隈で知らない人はいないってくらい有名になったけど、もちろんそこで満足なんかしない。

 売れて、売れて、売れて、見返したかった。


 実際この時代にミリオンを出した。

 だけど……この俺の活躍を親父が見ることはなかった。


 ……病気だったんだ。


「あぁ、津久井さんのとこのご子息」


 あえて公表はしてないけど狭いこの世界、そういう噂は広まってる。

「いやー、お父さんは素晴らしい音楽家だったね……でもこの時代にミリオン出しちゃうんだもん、やっぱり血筋かな? すごいよ」


 俺がどんなに努力したって「血筋」「遺伝」「サラブレッド」そんな言葉で片付けられる。

「君のお父さんと友達だったんだよ……よく自慢してたなー、俺の息子はすげーんだぞって」


 ……そんなこと、今更言うなよ。


「俺は時代にアシストされてたけど、あいつだったら今の時代でもミリオン出せる!それくらいの奴だって」


 うるせーよ……


「お父さん口、悪かっただろ?」


 まんまそこ俺も血継いでるんだけどな。

「それにシャイだろ? 上手く感情伝えること出来ない奴だったんだよ……しかし本当にお父さん超えるとはなー」



「いや、超えてないっすよ」


 超えさせてくれよ。
 もういないなら超えようがねーだろ……


 せめて数字の上で超えるしか……ねーだろ。