「いいね、さすがだね、問題ないっしょ」
「あ、いや、……もう一回歌ってもいいですか?」
「いいけど」


 もう一回、もう一回。


 あまり変わらないと言われても完璧に納得するまで歌いたかった。

「よし、いいね、どう?」

「そうですね、付き合っていただきありがとうございます」
「いやいいけどさ、プロだな」
「えっ?」
「いやー、いつもはあんまり自分の意思主張するタイプじゃないけど、こういう所はちゃんとしてて偉いなーって」
「手、抜きたくないんです、みんなの歌だし」
「そうだな……はい、じゃあお疲れ様。これデモ今から焼くから帰ってみんなに渡してくれる?」
「あ、はい」

 まだミックスもしてない録れたてのデモCDを人数分受け取った。


 部屋に戻るとすぐ龍がいた。


「龍、お疲れ」
「おぉ、歌入れた?」
「うん、入れてきた、これデモ」
「おぉ、出来たんか、ちょっと聞いてみようや」

 休憩エリアにCDデッキがある。そこに行きCDをかけた。


「おぉ、ええやん」
「ここからミックスしてもらうからもっとよくなると思う」
「そうやな」


「わっ、出来たのー?」


 その音に釣られるように楓雅さんと幸翔さんもやってきた。

「あー、お疲れ様でーす」
「お疲れー、なかなかよく出来てるじゃん」
「はい、あっ、これ」

 幸翔さんと楓雅さんの分のCDを渡した。


「ありがとう、後でゆっくり聞こっと」
「あ、空さんいますか?」
「まだ帰ってきてないよ、渡しとこうか? ……って言いたいところだけど俺らこれから仕事なんだよね、空戻ってくるまでいられるか」
「あ、大丈夫です、後で渡しておきます」




「じゃあ私先に陸に渡してくる、いるよね?」
「部屋におるよ」



 三人と別れて陸の部屋の前、ノックをしようと手を丸めて拳を作った。



 だけど、すーっと息を吸って勢いをつけて扉に触れようとすると勢いが止まってしまう。

 勇気が出なくて何度も何度もノックが出来ずにいて、また拳を作って勢いよく扉に向かって振り下ろした瞬間……


 ガチャっと中から扉が開いた。


「はぁっ」
「うわっ、なに」
「はっビックリしたー」
「いや、ビックリしたのこっち!」

 そう言うと、目が合って、暫くの沈黙の後、お互いどちらからともなく吹き出した。