スタジオを出ると両手に袋をぶら下げた真菜さんの姿が。

「真菜さん」

 慌てて駆け寄って一つ受け取った。

「あー、ありがとうございますー」
「お弁当ですか?」
「今日の夕飯ですー」


 もうすっかり夜が深くなってきている、だけどまだまだレコーディングは終わる気配がない。

「えっとー」


 真菜さんはお弁当をテーブルに置くとお金を取り出して自販機で飲み物を買いだした。


「あ、持ちますね」
「あ、ごめんなさいですー」

 休憩室から見えるレコーディングブース、硝子の中では両手を上げながらノリノリで聞いてる幸翔さんの後ろ姿がある。


 辞める人の感じしないよ、こんなに楽しそうなのに……


「どうしました?」
「あ、いえ」

 私の視線の先を真菜も追いかけるように見た。

「あははっ、幸翔さんノリノリですね」
「楽しそう……に見えますよね?」
「あー、はい、見えますね」


 ほら、見えてるよ、みんなに楽しそうに見えてるよ。

「幸翔さん辞めるなんて嘘ですよね?」





「あー」



 そう言うと少し考え込んでからサラッと帰ってきた言葉。




「なんで知ってるんですかー?」




 そんなわけないじゃないですかーって言われると思ってたのに。


「幸翔さんに聞きました?」


 首を横に振った。

「えー、誰に聞きました? 最近少しレドモンの極秘情報漏れるんですよー。ちょっと事務所内で問題になっててー」
「ネットに書いてたって……」
「あー、じゃあそっか」


 うんうん、と一人で納得したように頷いた。


「そっか、ってなんですか? 誰なんですか? 幸翔さんのセフレかもって噂ですが」
「セフレ? いやー違いますよ、あの人ですよ」


 そう言って指さした先、レドモンのスタジオの中。


「空さん?!」
「あー、はい、多分そうですー」
「空さんがなんでそんなこと漏らすんですか?」
「止めたいんだと思いますー幸翔さんのこと、ファンの子に先に広まれば辞められなくなる、ファンの子に広めて、ファンの子が荒れれば事務所が対策して辞めづらくなる」
「そんな……」
「漏れる情報は今のところそうやって止めたいこととかばっかりで、新曲情報とか仕事の情報は全く漏れてないんですよ。それで怪しいなって……ま、そのお陰で実際事務所も契約が切れないように手を打ってるんで辞められないですよ」
「辞めたくても、辞められないってこと?」
「まー、そうですね」