***


「その好きってどういう意味で?」
「どういう意味? 好き……」
「人として? 男として?」
「……え?」

それは……


「わかんねーの?」
「人……として」
「ふーん、本当に?」
「……はい」



「どういう気持ちになった?」

 空さんは少し苛立ったようにそう言った。

「だから……嫌いって思われたら嫌だなって気持ち……です」




「じゃあこれは?」



 そう言うと、二つ並んだ椅子、私の椅子の隅に手を置き、回り込むように……キスをした。

 少し潤む瞳、視線を上げると……交わる。

 どうしたらいいのか分からず瞳が揺れる。

 ゆっくりと深くなるキス、椅子に置いてあったはずの手は、いつの間にか私の首筋に。


 長い……キス、唇が離れると「んはっ」やっと酸素を吸える。



「俺の事も拒まねーの?」


 低くそう言った。


「俺の事も嫌いって思われたら困るから?」


 違う……


「いえ……それは、ちょっと……違います……」
「じゃあ、なんで?」
「私、空さんに……憧れてました」
「え?」

「西山さんに皆さんの事聞いて、資料の映像を見せてもらったんです。まだ皆さんとお会いする前の話です」


 初めて会った日のことを思い出しながらポツリ、と話しだした。

「一気に引き込まれて、かっこよさと儚さと色んな感情がぐちゃぐちゃになって、涙が出てきそうな、そんな気持ちになりました」

 あの時のことを思い出すと今でも胸が熱くなる。

「同日デビューを告げられた日、初めてお会いして、DVDで見るよりかっこいい、なんて見とれてたらいきなり大きな声で怒ったように叫ぶからビックリしちゃいました」

 そして心臓が震えてくる。

「そこから、空さんに会う度に胸がときめいてドキドキして、目が合うと心臓が止まりそうになるくらい締め付けられて……ある日気付いたんですよね、憧れてるんだって」

 そして一つ深呼吸をした。

「空さんのこと、好きです。……大好きです。だからあまり感情がコントロールできなくなるような事、しないでもらえますか」
「え……」
「ある一定の場所からは立ち入らないようにしてるんです。空さんの……パーソナルスペース、そこに一歩でも踏み込んだら……私、きっと戻れない」

 空さんの言葉を待たずに席を立った。

「私も…龍達のレコーディング見てきますね」


 空さんは私を引き止めなかった。

 私の首筋にあったはずの空さんの手は、知らない間に空さんの膝に戻っていた。