遅れてスタジオに着くともう他の五人が音合わせをしていた。

 こういう風にしよう、そんな細かいことが話し合われていて、大体決まったらレコーディングに入る。



「お疲れ様です」
「あ、お疲れー、じゃあ揃ったからとりあえずガイド録ろうか」

 まずは全員でセッションしてガイドと呼ばれる音を録る。


 軽く一発録りで合わせるだけだからすぐ終わる。

 これが終わるとリズム隊から録音する。


「じゃあ俺と陸くん、ドラム録ってくるね」

「すみません楓雅さん、ちょっとベース見てもらえますか?」

「あ、いいよ、じゃあ、ブラモンの方のスタジオ入ってもいい?」

「あー、もちろんす、ちょっと俺ら音合わせてくるな」

「うん」




「俺らもハモリの所とか合わせなきゃんないからレドモンの方のスタジオでやろ」
「はい。あの、空さん」
「ん?」
「CD、買ってくれたって……」

そう言うと空さんは気まずそうな顔をした。

「え、……あぁ」
「そんなこと全然知らないで……」
「内緒にしてたんだから知らなくて当然だろ、ほら、早く合わせようぜ」
「はい……ありがとうございました」


 いつも使ってたすみません。これを言わないようにした。なるべく意識してありがとうに変える。小さいけどそんな努力をしだしたんだ、この頃。


「んー、流石だな、問題なしっと」


 私が歌うとそう言って歌詞カードにOKと殴り書きをした。


「なぁ」
「はい?」
「お前さ、音程外すことあるの?」
「ありますよ、女にも声変わりってのがあって……まぁ男の人ほど激的には変わらないので気付かない人がほとんどですが、それまでは音を外すって感覚が分からなかったんです」
「え? ……天才肌なんだな」
「ふふっ、でも、声変わり以降は全然。……凡人だなって思いますよ」
「それで凡人だったら世の中天才なんていねーな」



「まだ幸翔録り終わってないみたいだし少し休憩するか」



 そうして少し時間が出来たから、なんとなく聞きたかったことを聞いた。


「あの、空さん達って、いつ頃結成したんですか?」
「あぁ、……十六かな、高校一年の時」
「へぇー、どうやって知り合ったんですか?」
「ん? あぁ高校の同級生なんだよ」
「え? 三人とも?」
「あぁ」
「え? え?」
「……なに?」
「てことは、同じ学校に三人がいたったことですか? 私てっきり事務所が選抜した精鋭かと思ってました……」
「いやいや、普通に一緒に授業受けてたよ」


 後に日本を代表し、記録を塗り替え続けるモンスターバンドがたった一つのクラスから排出されてたなんて私には衝撃的だった。

「机を並べて勉強してたってことなんですね」

「あぁ、実際席も縦に並んでたんだよ」
「すごい並びですね」
「まぁ、二年の時に野田ってのが転入してきて、幸翔と俺の間に入ったんだけどね」
「へぇー……で、みんなどんな高校生だったんですか?」

「幸翔はあのまんまだよ、長所真面目! 短所真面目! みたいな奴。正義感強くて自分曲げなくて、結構馴染めなくて孤立してた」
「なんか想像つきます」
「で、その幸翔の隣に楓雅がずーーーっといたんだよ。休み時間の度に机に伏せてる幸翔に声掛けて、昼飯もよく二人で食ってたな」
「空さんは?」
「俺? 俺は結構みんなと上手くやってたからさ、もちろんその二人と特に仲良かったんだけどさ、あいつら勉強出来るんだよ、でも俺は……あんまりで、授業中その野田ってやつとよくバカやって廊下立たされたりもした」
「あははっ廊下って……」
「うちの学校厳しかったんだよ」


「で、バンド組んだきっかけは?」
「俺がギターやってて曲作ったりしてて、バンドやりたくて学園祭で演奏するのにあの二人誘ったんだ」


 想像つくな、その頃から圧倒的なスター性を発揮してただろうな、他校から女の子が殺到してただろうなって。

「それでプロ目指すんですね」
「いや、実は三年になったらクラスが変わって……」
「クラス替え?」
「あぁ、勉強出来る組と出来ない組に分けられて……俺、あいつらと離れたんだよ」
「あはははは」
「で、その時はあんまりバンドやってなかったんだけど、卒業ライブしようぜって……幸翔が誘ってくれたんだ」
「そうだったんですね」
「そこからライブハウスで活動してインディーズになったってわけ」


 そこには私と出会う前のレドモンがいて、別々の場所で違う生活をしていた私達がなんの運命かこうやって巡り会って一緒に音楽が出来てるのはとんでもない奇跡なんだなって改めて思った。


「あの」
「んー? あ、ちょっとレコーディング終わったか見てくる……」
「あ、はい」


 こんな絆があって頑張ってきて、これからって時に脱退なんてするわけないよね。

 やっぱりこんなことは聞かない方がいいのかな、そう思ったけど空さんとこうやって話せる機会もないし聞こう。

「まだだって、何度も録り直してるな。その分いい音作れそうだな」
「そうですね、……あの、空さん一つ聞いていいですか?」
「なに?」