俺が声をかけた。それが全ての始まりだったね。


 あの頃俺は少し後悔してたんだ。

 壊れていくましろを見てて、だけど俺にはどうすることも出来なくて、両手に掬ってもサラサラとこぼれ落ちる砂のように掴んでも掴んでも掴みきれない、そんなましろを何か確かなもので繋ぎ止めておきたかった。

 俺が声をかけなかったらましろは今でも楽しく歌を歌ってたのかな。なんのしがらみもなくただ、好きな歌を歌えてたのかな。

 突然強くなったましろに違和感は抱いたけど、乗り越えたんだと思ってた。

 この世界に入る前は気付かなかった。みんなが俺達のことを知っていて、自分達の全てが丸裸にされてるようなそんな逃げ場のない状態で、そんな思いを共有できるのはほかの誰でもなく皆だった。

 誰かが弱さを曝け出せばそれに乗っかるようにみんな曝け出してたのかな、だったらそのきっかけは俺がしなきゃいけなかったよな。



「え? 歌詞?」
「そう、書いてみないか? アルバムに入れる曲一曲任せたい」
「私に書けるかな?」
「歌詞を書こうと思わなくていい。文字数が合わなくても、それは俺が直すから。ただ伝えたいこと、歌いたい言葉を書いてくれればいいよ」
「わかった、やってみる」


「西山さんが弁当買ってきてくれたんだ、一緒に食わない?」
「うん」

 ましろを部屋に呼び、西山さんが買ってきてくれたっていう西山さん曰く『とにかくすんげー弁当』とやらを開いた。



「うわっ、美味しそう」
「見た目からしてすげーな、なんか三千円くらいするらしいよ」
「三千円?!」


 それは赤、緑、黄色、栄養バランスが考えられていて、その上オシャレな弁当だった。

一口お肉を食べた瞬間、確かにこれは高いなって確信する。

「んーーーーー!」
「ははっ、美味いなこれ」

 それは口の中にふわーっと広がってすぐになくなってしまう。

「んー、幸せ」
「……そうやっていつも笑っててよ」
「んー?」
「俺、ましろのその笑顔が見たくて声掛けたんだよ」
「え?」
「一緒に歌おうって、そしたらずっとその笑顔見られる気がしたからさ」