「しかしあの美鈴って子、いてくれて助かるよな」
「昔っからずーっとましろの事本当に好きなんだな」
「嫌われ役を買ってでもましろの役に立とうしてくれるってなかなか出来ひんよな」


「二人にもいるじゃん、熱狂的なファン」

 メイクが終わり楽屋に戻ると陸と龍が美鈴ちゃんの話をしていた。

「おぉ、メイク終わったんか」
「俺らにもいるけど、異性だしな、同性って心強いよな」
「まぁ、確かに」
「次俺メイク行ってくるー」
「はーい」


「なぁましろ、もしも俺らに言えない悩みとかあったら、あの子なら口も堅いし、信用できるんじゃねーの?」
「え?」

 突然そんなこと言ったと思ったら

「俺らが女だったらよかったな……」

 少し寂しそうに陸はポツリ、そう呟いた。


「そしたらお前のこと助けてあげられたかもしれないのに」
「なに?」
「自分を……傷付けることだけはやめてくれ」
「気付いてたの?」
「もうさ、辞める?」
「え?」
「俺は別に辞めてもいいよ、そんなにしてまでしがみつきたいわけじゃないし、俺、人助けしたいんだよね。消防士とか、そっち目指してもいいなって」
「え、なに」
「ずっと考えてたんだよ、龍はあの顔であの人懐っこいキャラだし一人でもやっていけると思うんだ」


「やめて……」
「え?」
「やめてよ!」


 突然出た声は思いのほか大きかった。


「私の居場所……なくさないで……」
「じゃあもっと俺らを頼れよ!!」


 陸がこんなに声を荒らげるのは珍しい。

 というより、感情を顕にする陸を見たのは初めてだ。

「……え?」
「なんで、なんで俺らにじゃねーんだよ、俺らそんな頼りねーか?」

 陸は震える声でそう発した。

「そんなこと……ない」
「じゃあなんで俺らじゃなくて空さん達を頼るんだよ」

 荒らげた声は楽屋の外まで聞こえてたみたいで、慌てた様子で西山さんが中に入ってきた。

「ちょっとなに? 外まで聞こえてるよ」


「なんやなんや」


 続けてメイクを終えた龍も来た。


「絶対お前を一人になんてさせないから、あんま……孤独感じんなよ、お前が一人になったら俺らだって一人ぼっちじゃねーかよ」
「なんや、ましろ孤独感じてるん? 一人ちゃうやん、俺もおるし陸もおるし西山さんやっておるやん」
「うん、うん……」


 テレビに出ればその向こう側、会ったこともない人が沢山私の歌を好きでいてくれて、外に出れば暑さも寒さも関係なく何時間も待ってくれてる人がいる。

 こんなに愛されてるのになんで私はこんなに孤独を感じるんだろう。



 コンコンと扉がノックされた。


「ブラックモンスター様、お時間です」


「行けるか?」
「はい」

 陸、龍、二人のこと信じてなかったわけじゃないよ。

 それどころか大好きで大好きで、嫌われたくないくらい大好きだったんだよ。

 そうだね、美鈴ちゃんみたいに嫌われても構わない、それくらい強く自分を貫けばよかったね。


 それをできなかった私は



 ……弱いね。





「ついに本日セカンドシングル発売ですね」

 空さんに向けられたマイク。

「はい、今回の歌は前回とまた少し違うテイストの曲です。きっと皆さんに喜んでもらえる曲が作れたと思ってます」

 続けて陸にマイクが向けられる。

「僕達の曲はファーストシングルのアンサーソングになっていてストーリーが繋がっています。そんな所も楽しんでもらえたら、と思います」


「じゃあ、ここから少しプライベートな質問を、Mashiroさん、今一番欲しいものはなんですか?」
「あ、はい、欲しいもの……んー、難しいですね」
「満たされてますか? ふふ」
「あはっ、そうですね……あー、アロマとか、欲しいですね」
「リラックス効果がありますもんね、では次、Soraさん……好きな女性のタイプは?」
「は? 待って、なんで俺には欲しいものの質問じゃないんですか」
「あははっ、すみません、この質問多くて……」


 生放送、だいたい十分から二十分程の出演時間。終われば移動、また出演して移動。

 結局終わったのは夜の二十三時過ぎだった。

「お疲れ様です」

 最後のテレビ局を出ると出待ちの子がいた。

「こんな時間までみんな大丈夫なの?」

「大丈夫です」
「ましろさん、これ」
「ありがとう」

 中を見るとアロマキャンドル。

 朝言ったのをもう買ってきてくれたのか……


 だけどこの出待ちが事務所内でちょっとした問題になっていた。年齢が低い子も多い中で、何時に終わるか分からない仕事。

 ファンの子の安全を考えて規制がかかった。

 ずっと同じでいられなくてごめんね。

「変わってしまった」
「遠くに行ってしまった」

 その気持ち分かるし私達もみんなと触れ合える場所、守りたかったんだけど、守れなくてごめん。