「遅れる遅れる遅れる」

 急いで空さんの部屋を飛び出して自分の部屋に向かったら丁度部屋から出てきた陸とすれ違った。

「ましろ」
「あ、陸……おはよ」


 エレベーターの方から走ってくるのを見られてしまった。

「あ、……ちょっと外出てて……」


 咄嗟についた嘘。


「……そうか、もう集合時間になるから急げよ」
「うん」

 慌てて支度をしてバンに乗り込んだ。どっちみちテレビ局でメイクもするし、衣装も出るから本当に最低限の身だしなみだけ。


「お待たせしました」


 時間には間に合ったんだけど、男性陣は全員私より早く乗っていた。


「よし、じゃあ行くか」

 助手席の西山さんの声をきっかけに発車した。

「おはよ」
「幸翔さんおはようございます、今日は皆さん一緒なんですね」
「一日ずっと一緒だよ、よろしくね」
「楓雅さん、こちらこそよろしくお願いします」


「じゃあ出発しますよー」
「お前本当に運転大丈夫だろうな」
「超得意ですー」


 一番後ろの席が空いててそこに促されると隣に空さんがいた。


「おはようございます」
「おはよう」

 目的地まで二十分ほどなんだけど、みんなあっという間に寝ちゃって空さんと話をした。

「みんな寝ちゃいましたね」
「さっき起きたばっかでよく寝れるよな」
「それだけ疲れてるんですね」
「幸翔と楓雅は夜遅くまでゲームしてるからな」
「え? こんなに忙しいのにゲームしてるんですか?」
「息抜き、大事だからな、でもそのゲームでストレス溜まりそうなくらいのめり込んでるけど」
「あははっそうなんですね」


 そんなたわいない話をした。

「空さん」
「ん?」
「カーテンなんでつけてないんですか? 私のところ最初からついてましたよ」
「あんなだっせーもんつけられっかよ、自分で買いに行こうかと思ったんだけど忙しくて」
「え? 可愛かったですよ?」
「そりゃお前らのところはそっちのマネージャーが選んでるからな、こっちはアイツだぞ」

 アイツ…真菜さんか。

「俺のやつなんて幼稚園児が使うキャラクターのプリントだぞ?」
「あはははなんですかそれ、あれ? でも幸翔さんの部屋は黒じゃなかったですか?」
「幸翔と楓雅は黒、その二枚買ってちょうど黒が売り切れたらしいけど、あいつ俺の事ぜってー弄ってるよなー」
「あはははは真菜さんやるなー」


 私が笑うと空さんも笑った。


「え、なんですか?」
「いや、楽しい?」
「……はい、楽しいです」
「よかった」

 そう言って満足そうに目を細めた。

 どん底の日々にもこうやって心から笑える日があって、そうしてくれてる周りのみんなへの感謝を絶対に忘れてはいけないって思った。

 テレビ局に着いて車から降りると真菜さんが話し掛けてきた。

「なんですかーなんか超後ろ楽しそうだったんですけどー」

 運転していた真菜さんにはなんの会話をしていたか聞こえてない。

「おめーの話だよ」
「えー、あたしの話? それであんなに盛り上がってたんですかー? やばい、嬉しいんですけどー」



 キャーーーーーーーーー



 テレビ局の入口前に大勢の子が並んでる。

「ちゃんと並んでください、それと、今日は一日テレビ局のハシゴだからプレゼントや手紙は夜、最後の出待ちのみです」
「美鈴ちゃん」
「あ、ましろさん、おはようございます」
「おはよう、ありがとね」
「いえ」


「ちょっとアイツ仕切っててムカつく」
「自分ばっか喋ってるし」
「古参だからって調子乗りすぎ」


 私は美鈴ちゃんに沢山感謝していたけど、こうやって私が美鈴ちゃんだけに構う度、美鈴ちゃんの居場所がなくなるようでなかなか声をかけづらくなっていった。

「全然気にしてませんから!」

 でも美鈴ちゃんはケロッと笑顔でそう言う。