空さんのベッドを借りた。

「電気どうする? 点けとく?」
「あ、消して大丈夫です」

 そう言うと電気が消えた。

「おやすみ」

 って言われたけど、眠ることが出来なくて、体は疲れてるのに、眠いのに、ウトウトと夢の世界に入りかけると息苦しいような溺れるような感覚になって目が覚める。

「っ、はっ」

 苦しくて、眠りにつかないように必死に目を開けていてもやっぱり横になってると眠りに入りそうになる。

 胸がザワザワと不快で、座って朝が来るのを待とう、そう思った。


「眠れねーの?」

 おとなしくしてたはずなのに。空さんを起こさないように。

「どうすれば眠れるんだろうな」

 空さんは起き上がってベッドの上に上がり私の隣に座った。

 壁に背をつけ二人同じ方向を見ていると空さんがポツリと呟いた。


「……歌ってやろうか」
「え?」

 空さんは私の頭を空さんの肩に寄せるように私の頬に手を回し少し力を入れた。


 私の頭が空さんの肩に寄りかかると、空さんは歌い出した。

 アカペラで。

 二百万枚も売り上げてるアーティストがたった一人、私一人のためだけに歌ってくれた。


 やっぱり空さんの声は落ち着く。この声と歌い方だと思う。人の心を落ち着かせる、そういう声なんだと思う。

 いつの間にか記憶が途絶えた、夢の世界に行ったんだと気付いたのはだいぶ後の事だった。

 そして眩しい光が射し込んで目が覚めた。


「ん、んんっ、なに」
「ふっ、起きろ」
「んー? なに?」

誰……

 眩しいなぁ、なんでこここんなに眩しいの。

「起ーきーろ、遅刻するぞ」
「んー、もうちょっと……」

 まだ瞼が重くて、眩しくて、布団を被って抵抗した。

「ふっ、カーテンまだ買ってねーんだよ、眩しいよな……てかマジで遅れる、今日発売日だから生放送ジャックだろ」


 私の布団を剥いで私の頬に優しい手の感覚。


 その手に私の手をそっと被せて、温かい、なんて思ってゆっくり目を開けたら……

「え、えっ、えーーーーーーー」

 びっくりして飛び起きて、ベッドの端に小さく丸まった。

「……なに?」
「空さん……いつからいました?」
「はぁ? 昨日から、ずっといましたけど? てかここ俺の部屋」

 あ、そうだ。そうだそうだ、そうだった。

「あ、そうでした、寝ぼけてて……すみま……って今何時?!」
「だからギリギリだって! 早く支度しろ」

 こんな寝ぼけるくらい昨夜はちゃんと寝られたんだ。

 久しぶりに深く眠りにつけたんだ。