「ふぅ」
 電話を切る頃龍がお風呂から戻ってきた。

「龍、相馬さん来られなくなっちゃったんだって……」
「え、そうなん……」

 龍は一瞬動揺したように見えた。だけどすぐいつもの龍に戻った。

「まぁ、しゃーないな、忙しい人やし」
「うん」
「まぁ寝ようや」

 龍が変に意識したら私も意識する、多分龍はそう思ったから普通のふりをしたんだと思う。

 私は龍のベッドに、龍は下で寝た。


「なんか、このベッドいい匂いするね」
「匂い? なんやろ」
「香水かな?」
「ベッドの上で香水なんて使うわけないやろ、どんな匂い?」
「んー、いい匂いだよ、どんなって聞かれると難しいけど……優しい匂い」
「……分かった」
「なに?」



「イケメン臭やな」
「……おやすみ」




 いつしか心がコントロール出来なくなってきてじわりじわりと侵食するように壊れていくこと、私自身も気付かなかった。

 頭で理解していてもそれが出来なくて、いっそのことロボットになれればいいのにな、なんて思うようになっていた。

 みんなが望む自分を淡々とこなせる、そんなロボットになりたい。




 今日は久しぶりに六人全員のお仕事。そろそろセカンドシングルの発売が迫ってる、それのプロモーションだ。


「出てきた」
「お疲れ様です」


 収録が何時に終わるかなんて私にも分からないのにずっと待っててくれてレドモンと分かれて対応をした。


「お疲れ様です」
「あ、美鈴ちゃん、いつもありがとう」
「あの」
「ん?」
「ちょっといいですか?」

 そう言ってみんながいないところに私を誘導しようとした。

「ちょっとずるい」

 そんな声も聞こえてきたけど、美鈴ちゃんはこんなことすること今まで一度もない。

 いつもルールを守ってくれる。そしていつも私を庇ってくれる。そんな美鈴ちゃんがこんなこと言うんだから何かあったに違いない。

「ごめんね、すぐ戻ってくるから」

 そう言って他の人に話声が聞こえないところに二人で行った。


「どうしたの?」
「あ、ごめんなさい、あの、レドモンのYukitoなんですけど」
「幸翔さん?」


「脱退するんですか?」


 みんな笑顔だ。ファンの前では……

 ううん、仲間の前ですら笑ってて、 だけど、みんなそれぞれ悩みもがき苦しんでるんだ。


「え? ……え? 脱退って何?」

 所詮ただの噂話、そうだとは思ったけど、今まで幾度となくこんな突拍子もない噂話を出されたけど一度だって信じたりはしない、私達の言葉以外信じない、そんな信念の美鈴ちゃんの言葉だったから不安になった。


「これ見てください」
「掲示板……?」
「ただの掲示板、嘘が溢れてます。でもこのアルファベットの羅列分かりますか? これって人の端末ごとに分かれてるんですけど、このIP、この人たまに落とす情報、嘘がないんです」
「これ、誰?」
「分からないです、でもとっても身近な人、それだけは言えます。追っかけなのか、セフレなのか……」

「セフレ? 幸翔さんセフレなんているの?」
「いやそれは分からないです、私そもそもレドモンに詳しくないですし……でもこれが本当だったらブラモンにも影響するって思ったら不安で……」
「そうだね、また聞いてみる。だからあまり……」
「分かってます。言いません。ここ、嘘ばっかだから誰も信じてませんし」

 ふとレドモンの方を見ると、三人はニコニコと笑顔でサインや写真の対応をしている。

 特に幸翔さんはファン対応が飛び抜けてよく、フレンドリーに接してくれることで有名だ。