「これで血、止まるはずだよ」

 幸翔さんは手慣れた様子で止血をしてくれた。もしかしたら風雅さんにもよくしてるのかな? そんな手つきだった。

「ありがとうございます」
「僕のせいだね、ごめん」

 楓雅さんがそう言った。

「何があったの?」

 眉を下げ覗き込むように空さんがそう聞いた。

「楓雅さんのせいじゃないです、ただ、私も、ここ、痛くて……この痛み忘れられるかなって」
「胸が痛いの? 心ってこと? 何かあったの?」

 震える声に気付いたのか優しく諭すように幸翔さんが聞いた。

「私、あの……」

「どうしたー?」

 空さんの口調も柔らかくなってる。

「ごめんなさい、皆さんに来ていたCMを……私が、奪ってしまいました……本当にすみません」
「ちょっと、泣かないでよ、なに、どういうこと?」

 CMのことはまだしも、枕のことはきっとすぐにバレてしまうだろう。そして軽蔑されるだろう。だから人の口から言われるより先に自分の口から言いたかった。

「嘘だろ……」

 言葉に詰まる空さん。

「辛かったね、よく話してくれたね」

 優しく声を掛けてくれる楓雅さん。

「ふざけんなよ、なんなんだよ、ぜってー許さねー」
「ごめんなさい……」
「違うよ、空はましろちゃんに怒鳴ってんじゃないよ」

「服、着替えようか、血がついてる」
「あ、ダンボール……まだ全部届いてなくて」
「僕のTシャツ取ってくる」


「あいつらは? 知ってんの?」
「はい、今日みんなに話しました」

「この傷のことは?」
「これは……引っ掛けただけだと」
「言わない方がいいね」

「今日は俺の部屋で四人で寝よう、ちょっと狭いけどさ」

 そう幸翔さんが言うと

「そうだな、一人にはできないから」

空さんもそれに同意した。

「持ってきたよ、サイズ合うといいんだけど」
「ありがとうございます」

 男性にしては少し小柄の楓雅さんのTシャツを受け取ったら幸翔さんがトイレに案内してくれた。

「ここで着替えて」

 頼るべきなのは同じメンバーなのが普通だと思う。どちらかというと迷惑を掛けていいのもそっちだと思う。

 だけど近すぎると言えないこともあって、程よく離れたこの三人に甘えてしまったこと、そして結果的にその事で傷付けてしまったこと、それも私の考えの甘さだったよ。


 私は幸翔さんのベッドに、下に三人が寝た。


「ちょっと空暑い、もっとあっちいって」
「はぁ? しょうがねーだろ、狭いんだから」
「てかどっちか部屋戻ってもいいよ、俺と二人きりだとさすがにまずいけど、三人もいる必要ないから」


「お前戻れよ」
「やだよ、空戻りなよ」

 結局朝までみんないてくれた。


「俺ら今日から二泊で地方に行かなきゃなんないんだ」
「西山さんに言っといたから、今日は西山さんが来てくれるから」
「私一人で大丈夫ですよ?」
「大丈夫なわけないでしょ、僕達の言うこと聞きなさい」
「……はい」

 その日の夜、陸と龍は仕事があって帰れなくて西山さんと真菜さんが来てくれた。

 私の部屋に残りの荷物を運ぶのを手伝ってくれて、そのまま泊まってくれることになった。

 真菜さんは本当はレドモンと一緒に地方に行かなきゃいけなかったんだけど、あの三人がいいからって残してくれた。

「俺と二人きりはまずいから、まぁ女がいた方がいいと思うし連れてきた、気分も明るくなるだろ?」
「えーなんですかー」
「ふふっ、はい」

 西山さんには昨日のことは言った。でも真菜さんには言ってない。

「それにしても鍵が壊れてたんですか? 超危ないですねーすぐに直さないと……いや、でもここ最上階だから鍵なくてもよくないですか?」
「強盗とかはな、一、二階の次に最上階が狙われやすいんだよ、屋根からすぐ入れるだろ」
「えー、超怖いー」


 本当は鍵なんて壊れてない。そういうことにして危ないからって来てもらった。

「いやー、しかし夜景超綺麗ですね。ヤバすぎですー」
「早くもう布団に入って、明日も早いんだから」
「あー。そうですねー早く寝なきゃですね」


 そう言って三人並んで布団に入った。

「いやーーーー興奮して全然眠れないですー」

 と言った直後聞こえてきた寝息。


「え? 寝ました?」
「ふっ、はえーな」

 真菜さんはもうすっかり夢の中に行っていた。

「なぁ、ましろ、辛いか?」
「いえ、大丈夫です」
「辛い時は辛いって言ってほしい」
「……はい」

 最初は一番手がかからないって言われてた。いつしか一番危うくて目を離すわけにはいけない問題児になっていった。

 だけど手がかかる子ほど可愛いんだよ、なんてよく言ってくれた。

「今日は俺陸の仕事で一緒に大阪行かなきゃなんないんだよ、相馬に言ってあるから、龍と三人で過ごして」
「あの、本当にもう大丈夫です……」
「信用されたきゃ時間をかけて信用を勝ち取れ」
「……はい」


 その日の夜仕事が終わって部屋に戻ると龍が声を掛けてきた。


「よぉ、なんや鍵が壊れたんやって?」
「そうなの」
「俺がましろの部屋で寝てましろが俺の部屋でもいいなって思ってんけど西山さんが俺も商品やから危ないからあかんて」
「ごめんね」
「別にええよ、修学旅行みたいでちょっと楽しいそうやしな」

 龍がお風呂に入ってる間に電話がかかってきた。

「もしもし、相馬さん?」
「あ、お疲れ、今日そっち行く予定だったんだけど俺仕事入っちゃってさ、鍵が壊れてるんだって? でも今日陸いないだろ? 陸の部屋に泊まれる?」
「あ、はい、大丈夫ですよ」
「ごめんね、すぐ鍵直す手配するから」

 相馬さんには言ってない。言わない方がいいって幸翔さんが言ったから。

 仕事を詰めたこととか、気付けなかったこととか責任を感じてしまうだろうっていう配慮からだった。