ピリリと衝撃が走った。

 少しだけ、少しだけのつもりだった。初めてで加減がよくわからなくて深く切ってしまったのかもしれない。

 どうしよう、血が止まらない。肩からドクドクと流れる血と心臓の音が交差する。

 大丈夫、すぐ止まる。心臓より上に傷口を上げて……それでも流れてくる血。怖い。どうしよう。ティッシュでどれだけ押さえても溢れてくる。

 不安になりながら部屋から出てすぐ隣のドアをノックした。

 ……寝てるよね。


 コンコンとノックをしたけど出てこない……

 諦めてもう一つ隣の部屋に行こうとした、その時、ガチャっとドアが開く音がした。


「あ、あ、陸……」
「ましろ? どうした?」

 眠っていたであろう目を擦ってまだ頭も冴えてない。

「ごめんね、こんな夜中に」
「んー」

 段々開いてくる目、冴えてくる頭……陸の顔が強ばってきた。

「おまっ、これなに」

 私の肩に触った。

「血が……止まらなくて」
「ちょっと待って、病院行こう」
「いや、いい」
「よくねーだろ、何してこんな怪我したの? どっか引っ掛けたの?」


「ましろ?」
「うん、引っ越しの片付けしてたら、ちょっと引っ掛けちゃって」
「待ってろ」
「病院行くと、ほら顔バレするし、ごめん、じゃあなんで起こしたんだって話なんだけど……」

 本当は楓雅さんの所に行こうと思ったんだけどレドモンの部屋はエレベーターの反対側。

 怖くて一番近い陸を起こしてしまった。

 一瞬ふらっとなって体勢を崩した。近くに捕まろうと思ったんだけど一番近かったのが

「ご……めん、本当、ごめん」

 陸の胸だった。

「だからさー、お前あんま謝んなよ、こんなの全然謝ることじゃねーだろ」
「うん」

 自力で離れると陸は私の腕を掴んでよろけないように支えてくれた。

「なぁ、龍」

 そして隣の龍の部屋の前に立ちドンドンとノックした。

 しばらくして「んぁ……」と眠たい目を擦って龍が出てきた。


「なに? どうしたん?」
「ましろが怪我しちゃって病院行きたいんだけど」
「え?????? 怪我?????? 大丈夫なん?」

 相変わらず声が大きい。
 寝起きなのに声が大きい。

「大丈夫じゃないから病院行くの、ちょっと西山さんに電話してくれない?秘密守ってくれるような病院あるだろ」
「あぁそうやな、ちょっと掛けてみる」
「俺タクシー手配するわ」


「どうしたの?」


 多分龍だと思う。龍があんな大きな声出したもんだからエレベーターの向こう側の三人が起きてきた。

「え、ましろそれなにしたの?」

 驚いた空さん。

「切ったの?」

 それに楓雅さんも続いた。

「そうなんすよ、引っ越しの荷解きで引っ掛けちゃったみたいで」
「ほんまそそっかしいな」


「ちょっと見せて」

 そう言われ幸翔さんに傷口を見せた。

「ん、ちょっと深いね、でも縫う程じゃないよ、おいで、消毒しよう」

 そう言って幸翔さんの部屋で手当をしてもらった。