その日の夜荷物を運び出して引っ越しをした。

 新しいアパートは一棟丸々うちの事務所が所有していて、その最上階が私達六人の部屋になった。

 深夜だからあまり音を出さずにゆっくりと荷物を運んだ。

「残りはスタッフにまた明日の日中に取りに行かせるから、とりあえずこれだけで過ごせるだろ?」
「はい。あの西山さん」
「ん?」
「昼間は……ごめんなさい」
「ましろってさ、よく謝ってるよな。ましろのごめんなさい、すみません、申し訳ございません、俺、何回聞いただろう」

「あ、すみま……」
「ほらまた」
「あっ……」
「いいんだよ、謝らなくて。ましろは全部悪くねーじゃん、ただ食事してただけどか、龍を守りたかっただけとか、あんま自分追い詰めるな」
「はい」

「じゃあ部屋はここ、明日は午前はオフだからゆっくり休め」
「はい、お疲れ様でした」


 西山さんを見送って部屋に入ろうとしたら陸に呼び止められた。

「よぉ、ちょっといい?」

 この階は私達六人と、マネージャーくらいしか自由に入れないらしい。

 相馬さんでさえも私達が内側から鍵を開けなきゃ入ってこられないほどだ。

 陸に呼ばれてみんなが集まれる休憩エリアに行った。

「なんか飲む?」
「うん、じゃあ……お茶」
「ん」
「ありがとう」


 蓋を開けた瞬間陸が話しだした。

「聞いたよ」
「あ、うん」
「相談してよ」
「うん、そうだね、相馬さんにもそれ注意された」
「そう」

 相変わらず何考えてるか分からない、淡々と話していて感情があまり乗らない。

「お前の夢って何?」
「夢? 出来ればずっと歌っていたい。一生」
「それだけ?」
「うん、陸は?」

「勝ちたいね」
「レドモンに?」
「いや、全部。全部に勝ちたい。金稼いでいい服きて、いい車乗って、誰にも追いつけない上の方に行きたい」


 初めて聞いた。やっぱり陸は口に出さないけどたまにする野生の目は間違ってなかったんだ。

「陸なら出来るよ」
「いや、俺には出来ねー」
「え?」
「俺一人じゃ、出来ねーんだよ、お前と、龍がいなきゃ出来ねーし、お前らがいなかったら……別に俺に夢なんてない。今すぐ辞めてもいいし」


 きっと陸はこう言いたいんだ。私達にいい服を着させていい車に乗らせて良い生活を送らせたいって。

 特に私は家に居場所もなくて親の愛情を受けてきてない。

 だからこそ勝ちたいのは陸ではなくて、私に勝たせたいんだ。

 負け続けてきた私に最後に一発逆転ホームランを打たせてあげたいんだ。