「立石……さんです」
「あのエロジジイ」
相馬さんは立ち上がって壁をドンッと一回殴った。
こんなに怒ってる相馬さんを見るのは初めてだ。
相馬さんに落ち着くように促してから西山さんは優しく聞いてきた。
「……いつから?」
「少し……前です。」
「仕事くれるって言われたの?」
小さく頷いた。
「なんで? 今ある仕事だと不満だった?」
「相馬ちょっと落ち着いて」
「いえ、不満なんて……」
「じゃあなんでだよ」
相馬さんの声が震えてる。
「ごめんなさい……」
「謝ってるだけじゃ分かんねーよ」
「すみません……」
「ちょっと相馬……」
「龍が……」
「え?」
「ベッド写真を売られたみたいで……」
「は?」
「体の関係を持ったら……それを止めてくれるって」
「西山、龍呼んで」
「ん、あぁ」
「で? それ止めるためにやったの? 俺とか西山に相談しようとか思わなかったの?」
「……それに」
「それに?」
「前撮られた私のせいでブラモンの売上が伸びないって言われて……業界内でもいいイメージないって……で、言うことを聞いたら仕事をくれるって」
「ふざけんなよ……お前らよりレドモンの方が売上があるのは、あいつらの方が実績があるからだよ、経験があるからだよ、それだけだよ、お前らのあの写真でいいイメージがない? んなわけねーだろ、あんなただの食事してた写真で」
重い空気が流れる中、まだ帰路についてなかった龍がすぐ戻ってきた。
「なにかありました?」
西山さんが事の顛末を話した。
「は? え? いや、ないない、その写真見たん?」
「見たよ」
「ほんまに俺やったん?」
「うん……画像は少し暗かったんだけど、その、いつもしてるネックレスしてた」
「いやこんなんレアもんでもなんでもないで? 誰でも手に入るやつやで」
「絶対お前じゃないのか?」
「だってこれ付けたのデビューしてからで、俺デビューしてから女の子とデートすらしてませんもん、てか忙しくてそんな暇ないですやん」
「言ってくる」
そう言って席を立った相馬さんを引き止めた。
「待ってください」
「え?」
「言うのはやめてください。これで仕事もらえなくなったら……」
そう言うと西山さんが項垂れた私の肩に手を当てた。
「なんでそんなに仕事にこだわるの? これ以上売れたいの? 空じゃあるまい、ましろにもそんな野心あったの?」
「私は……正直キャパ百人の箱でも、そもそも路上でもいいんです、歌えればなんでも。でも……私達にかけられた費用は多大で、その上私の不注意で差し替えしてもらう時にお金もかかってますし、働いて……返さないと」
そう言うと相馬さんは眉を下げた。こんな悲しい顔をさせてしまったのは……私だ。
「そんなんもうお釣りが出るくらい稼いでるよ、細々とした仕事なんかよりCDが売れるだけでとんでもない額入ってきてるんだよ……」
力なく吐いた相馬さんの声。この声は私はずっと忘れられないだろう。
「あいつ許さねー、児ポとかしてねーかな」
「児ポってなんすか?」
「十八歳未満に手出してないかなって、そしたらあいつパクれる」
「調べてみるか」
「あぁ、お願い」
「なぁ、ましろ、ましろにとって俺って何?」
「え? 相馬さんですか? ……えーっと、プロデューサーさん」
「西山は?」
「……マネージャーさん」
「陸と龍は?」
「仲間……かな」
「俺らは違うの? 俺と西山は仲間じゃないの?」
「え?」
「お前ら三人だけでやってんの? 違うだろ? なんで信じてくれないの?」
「……はい」
「信じて、人を信じないと誰からも信用なんてされないよ?」
「はい」
「じゃあ今日はもう帰っていいよお疲れ」
もうすぐセカンドシングルが発売するというこの頃、私の心はズタボロだった。
「帰ろ、今日夜引っ越しやろ、荷物もうまとめたん?」
「うん、もうほとんど出来てる」
「そっか……」
事務所を出る時、龍は私を呼び止めた。
「なぁましろ」
「んー?」
「ありがとうな」
「なに?」
「守ってくれて、ありがとう」
「あのエロジジイ」
相馬さんは立ち上がって壁をドンッと一回殴った。
こんなに怒ってる相馬さんを見るのは初めてだ。
相馬さんに落ち着くように促してから西山さんは優しく聞いてきた。
「……いつから?」
「少し……前です。」
「仕事くれるって言われたの?」
小さく頷いた。
「なんで? 今ある仕事だと不満だった?」
「相馬ちょっと落ち着いて」
「いえ、不満なんて……」
「じゃあなんでだよ」
相馬さんの声が震えてる。
「ごめんなさい……」
「謝ってるだけじゃ分かんねーよ」
「すみません……」
「ちょっと相馬……」
「龍が……」
「え?」
「ベッド写真を売られたみたいで……」
「は?」
「体の関係を持ったら……それを止めてくれるって」
「西山、龍呼んで」
「ん、あぁ」
「で? それ止めるためにやったの? 俺とか西山に相談しようとか思わなかったの?」
「……それに」
「それに?」
「前撮られた私のせいでブラモンの売上が伸びないって言われて……業界内でもいいイメージないって……で、言うことを聞いたら仕事をくれるって」
「ふざけんなよ……お前らよりレドモンの方が売上があるのは、あいつらの方が実績があるからだよ、経験があるからだよ、それだけだよ、お前らのあの写真でいいイメージがない? んなわけねーだろ、あんなただの食事してた写真で」
重い空気が流れる中、まだ帰路についてなかった龍がすぐ戻ってきた。
「なにかありました?」
西山さんが事の顛末を話した。
「は? え? いや、ないない、その写真見たん?」
「見たよ」
「ほんまに俺やったん?」
「うん……画像は少し暗かったんだけど、その、いつもしてるネックレスしてた」
「いやこんなんレアもんでもなんでもないで? 誰でも手に入るやつやで」
「絶対お前じゃないのか?」
「だってこれ付けたのデビューしてからで、俺デビューしてから女の子とデートすらしてませんもん、てか忙しくてそんな暇ないですやん」
「言ってくる」
そう言って席を立った相馬さんを引き止めた。
「待ってください」
「え?」
「言うのはやめてください。これで仕事もらえなくなったら……」
そう言うと西山さんが項垂れた私の肩に手を当てた。
「なんでそんなに仕事にこだわるの? これ以上売れたいの? 空じゃあるまい、ましろにもそんな野心あったの?」
「私は……正直キャパ百人の箱でも、そもそも路上でもいいんです、歌えればなんでも。でも……私達にかけられた費用は多大で、その上私の不注意で差し替えしてもらう時にお金もかかってますし、働いて……返さないと」
そう言うと相馬さんは眉を下げた。こんな悲しい顔をさせてしまったのは……私だ。
「そんなんもうお釣りが出るくらい稼いでるよ、細々とした仕事なんかよりCDが売れるだけでとんでもない額入ってきてるんだよ……」
力なく吐いた相馬さんの声。この声は私はずっと忘れられないだろう。
「あいつ許さねー、児ポとかしてねーかな」
「児ポってなんすか?」
「十八歳未満に手出してないかなって、そしたらあいつパクれる」
「調べてみるか」
「あぁ、お願い」
「なぁ、ましろ、ましろにとって俺って何?」
「え? 相馬さんですか? ……えーっと、プロデューサーさん」
「西山は?」
「……マネージャーさん」
「陸と龍は?」
「仲間……かな」
「俺らは違うの? 俺と西山は仲間じゃないの?」
「え?」
「お前ら三人だけでやってんの? 違うだろ? なんで信じてくれないの?」
「……はい」
「信じて、人を信じないと誰からも信用なんてされないよ?」
「はい」
「じゃあ今日はもう帰っていいよお疲れ」
もうすぐセカンドシングルが発売するというこの頃、私の心はズタボロだった。
「帰ろ、今日夜引っ越しやろ、荷物もうまとめたん?」
「うん、もうほとんど出来てる」
「そっか……」
事務所を出る時、龍は私を呼び止めた。
「なぁましろ」
「んー?」
「ありがとうな」
「なに?」
「守ってくれて、ありがとう」