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 パチパチパチとまばらな拍手が空の下、鳴り響く。


「ありがとうございます」


「お姉さん歌上手いね」
「女性一人の流しなんて初めて見た」


 立ち止まってくれた人が十人弱、今日は金曜日、いつもより人が多い。



「最高です!」
「美鈴ちゃん、いつもありがとう」


「ねぇ、お姉さん……この後飲みに行かない?」
「いえ、すみません」


 その分酔っ払いも多い。


「いいじゃん、ちょっとだけ、ね?」


 困って顔を上げるとみんな関わりたくないのか気まずそうな顔をして去っていった。


「ねぇ、いいでしょ? もうみんないなくなったし歌ってても意味ないじゃん」
「私いるし意味あります」


 そんな風に言ってくれる美鈴ちゃんも巻き込まれたら困るって、ちゃんと言おうと思った瞬間、ガヤガヤとだんだん賑やかになって来て、顔を上げた。


「いや、俺らが今から聞くから、連れてっちゃ困るよ」
「そうや、ね、歌って? 自分めっちゃ歌上手いな、いつもここで歌ってるやろ、俺らあっちで歌ってんねん」


 ……知ってる。

 男の子二人組。私と同じ歳くらいかな?


 いつもファンの子に囲まれていてイケメンで、否が応でも目立ってた。

 そんな二人がファンの女の子を引き連れて来てくれた。多分私が絡まれてたのが見えたんだろう。大勢の人に囲まれると一気にバツが悪くなったのか酔っ払いは帰っていった。


「ありがとうございます」
「ううん、気を付けなね、あ、俺陸」
「俺、龍」
「あ、私はましろです」


これが私達の出会いだった。


「三人で歌ってみない?」

 そう提案してくれたのは陸だった。

「俺ら二人で弾き語りしてんねん、自分歌めっちゃ上手いから俺らの歌歌ってみて欲しい」

 そう言われて三人でセッションしたのが最初。二人がギターで私が歌う。

 元々いた二人のファンも含めどんどん見てくれる人が増えていった。そんな矢先声を掛けられた。

「こんばんは、こういう者なんですけど」

 渡された名刺には「西山雄大」の文字。

「西山さん……レコード会社?」
「そう、レコード会社の人間なんだけど君達大きい箱で歌ってみる気ない?」
「え、大きい箱?」
「俺と一緒にデビュー目指してみないか?」

 最初はちょっと胡散臭いなぁって思った。だけどすぐに警戒心は解けた。

西山さんは絶対悪い人じゃないって分かったから。

何度も足を運んできてくれて、正直路上でやるには人が増えすぎて警備もついてない今のままだと続行するのが不可能になってきていた。

そんな時に西山さんに「バンド形式でやってみないか」って提案された。

そこからすぐに陸はドラムを龍はベースを弾き始めた。

龍は元々ギターをやってたからベースにもすぐに対応できたけど陸は大変だっただろうな、毎日毎日ドラムを叩いていた。

それは今も変わらない。