「じゃあいつも通りましろから先に降ろしてくよ」


 バンに乗り込むと助手席に乗った西山さんがそう言った。


「はーい」


「なぁ……この時間勿体なくねーか?」
「この時間て? なんですか?」
「送り迎えの時間、三人拾ってくのは時間かかるし、一回で済めばお前らももう少しは寝られるんだけどな」
「えー、寝たいっす、でも三人おるから無理ですやん」
「うん、でな、事務所で契約してるマンションがあるんだけど、そこ住まないか? セキュリティ一もしっかりしてるし、そしたら三人順番に降ろすこともないからみんな早く帰宅出来るし」
「それいっすね」
「うん、いい 住みたい」
「食事も出してもらえるし洗濯もやってもらえる、悪くないだろ」
「なんで早く教えてくれなかったんすかー、住みます。なぁ、みんなも住むよな」
「あぁ」
「いや、そのマンション契約したのが最近なんだよ、ほら、週刊誌の件もあったし。向こうの三人も住むみたいだから。……じゃあ早速手続きしてくる」


 こうして私達は同じマンションに住むことになった。

 ドーム公演が終わったらすぐに引越し準備に取り掛かる。

「西山さん、さっき話しとった相馬さんのデビューの話ってなんやったんですか?」
「ん? あぁ、相馬ね、十代の頃バンド組んでて……デビュー決まってたんだよ、だけど同時期に出るライバルグループの事務所の人間に……嵌められた」
「嵌められた?」

「うん、ドラムだっけな? メンバーの奴が未成年飲酒を週刊誌に撮られたんだよ」
「それってそのドラムの人が悪くないですか?」
「いや、飲んでなかったんだよ、そもそも飲むわけないんだよ、そいつの親父さん酒飲みで飲んで帰ってきては暴れて……だから酒にすげー嫌悪感ある奴でさ、酒の場所に連れられて飲んでるような写真撮られただけ」
「え、でもそんなの否定したらよかったんじゃないですか?」
「広められたんだよ、親父さんが酒飲みだって。だったら大抵の人間が血を継いでるんだから飲んだんだなって思うだろ、それでついてたスポンサーが降りてデビューはパー」

「なんや、酷い話やな」
「信じてくれなかったんですか? 事務所とか、守ってくれなかったんですか?」
「すぐ契約解除された。この世界はこんなもんだよ、お前らは恵まれてる。ライバルにもプロデューサーにもな」



「そうですね」
「マネージャーにもね」
「そうやな、恵まれてるな」