一ヶ月後、東京ドーム公演の準備に追われていた。

 あれからレドモンのデビューシングルはまた一段と売上を伸ばしもう二百万枚に迫る勢いになっていた。

 それに反し私たちの方は伸び悩んでいた。

 それを見兼ねたのか、事務所に言われたのかわからないけど空さんと幸翔さんは陸に付きっきりでレクチャーを始めて、楓雅さんも龍にベースを教えてくれるようになった。

 だけど私はレドモンのみんなに会う機会はなかった。

「みんな練習に精を出して忙しそうだな」
「相馬さん、おはようございます」
「おはよう、呼び出してごめんね、仕事の話があって」
「仕事? 個人仕事ですか?」
「そうそう」

 もう少しでドームのリハーサルが始まる、そんな時に相馬さんに呼び出された。

「実はさ、これ、なんだけど」

 差し出されたのは漫画誌。

「漫画……? 私絵なんて描けないですよ」
「違う違う、これこれ」


 そう言ってトントンと表紙を指した。


「え……」


 それは水着を着て胸を強調させた所謂グラビアの仕事だった。


 無理です……そう言いかけた言葉をぐっと飲み込んだ。

 私のせいでどれだけのお金が動いたんだろう。あの週刊誌のことが頭に浮かんだ。

「どうかな?」

 歌が好きで歌が歌いたい。私にはこれが全てだった。

 それ以上もそれ以下もなかった。

 ありがたいことにこんなにたくさんの人の前で歌わせてもらって、これが当たり前になりつつあった。

 だけど私は人々の犠牲の上で歌えてるんだ。

 頭を下げてくれた相馬さん、身代わりになってくれた陸。


「……わかりました」


 歌が……歌えればいいや。


 何をしても最終的に歌えればいいや。


「じゃあすぐに撮影に入ろう、発売日をドームの日にぶつけるから、話題になるよ」


 いつだって破格の待遇だ。


「はい、あ、あの」
「ん?」
「ありがとうございます」
「なに?」
「歌、歌わせてくれて……ありがとうございます」
「なんだよそれ」

 急に畏まった私に少し照れたように笑われたけど伝えたかったんだ。

 後日グラビアの撮影をして、ドームのリハーサルが始まった。

 久しぶりに会うレドモンのみんな。なかなか緊張して眠りにつけなかった。