「………え」

 呼び出された事務所。朝から取材を終えそのまま駆けつけたらバサッと一枚の紙を見せられた。

 それは見覚えがあるもので、よく週刊誌なんかで見る写真と記事のコピーだった。

「昨日のお前らだってー」

 相馬さんにそう言われた。昨日、後をつけられてたんだ。

「気を付けてって言い忘れてたよ、だってこんなに仕事詰めでデートするなんて思わねーじゃん」
「デートじゃないです」

 そう否定すると西山さんも続いた。

「いや、帰りもタクシーバラバラみたいだし普通に飯食ってただけだろうけどさ、相手がまずいよ、ライバルのエースと撮られるのはまずい」
「そんな仲良かったっけ?」
「いえ、昨日たまたまお会いしてご飯を食べただけです」
「今はねー、みーんな狙われてるの。これ世間に出たら空のファンは荒れるぞ、空を勝たせるためにCD買ってるのにライバルとズブズブだったのかよって」
「そうですよね、軽率な行動でした……本当に申し訳ございません」


「金積もう」

 そう西山さんの提案が提案したけど相馬さんは首を横に振った。

「いや、金じゃ消せない。だって多少多額な金受け取るよりこれ出した方が雑誌は売れるしインパクトも絶大、スクープ撮ったってことで雑誌の格が上がる、出すメリットの方の方がありすぎる」


「じゃあ……差し替え」
「これより特大なスクープあるか? いっちばん食いつくネタだよ、ライバル同士のカップル」
「じゃあ金と差し替え両方!」
「それしかねーよな」
「本当に申し訳ありません」

「ごめんごめん、俺も言いすぎたよ、そんなに落ち込まないで」
「ある程度の金と……写真の撮り直し……陸か?」
「それくらい出さなきゃ向こうも納得しないだろうな」
「え、待ってください、陸と私が撮られるんですか?陸全然関係ないじゃないですか」

 そう言うと西山さんは諭すように言った。

「でもね、空の代わりになるのは陸しかいないんだよ、ライバルの空と撮られるより同じ仲間の方がまだマシだし、食事したところ撮られただけだから友人関係で通せる。それにしても疑う人はいるし、これで離れてくファンもいるからな」

 こんなおおごとになるなんて……


「空には?」
「真菜が言ってる」
「そっか、じゃあ陸を呼ぼう」


 西山さんが陸に電話をかけて呼び出してる間に扉の向こうが騒がしくなった。


「いや、ちょっと落ち着いてくださーい」

 焦ったように制止してる真菜さんを振り切って「何これどういうこと」空さんが乗り込んできた。


「あー、今から交渉してくるから」
「何交渉って、別に出させればいいだろ、こんな記事、ただ飯食ってただけだろ」
「それは分かってるけど、世間は納得しない」
「世間てなんだよ、なんで世間を納得させないとなんねーんだよ」
「お前らは、その世間にCDを買ってもらってそれで飯食ってんの、それ分かってる?」
「俺らはアイドルじゃねーんだよ、そんな顔だけのファンなんかいなくなっても、俺らの音楽だけで売れてやるよ」
「はぁ、お前らがその顔じゃなかったら今回のCDどれだけ売れてたと思う?」

次の瞬間、いつもは高く柔らかい相馬さんの声が一段階下がった。


「ほとんど売れてねーよ」

そして、こう続けた。

「この時代音楽にホンモノを求める人間はそんなにいねーんだよ」

 捨て台詞のようにそう吐いて、相馬さんは雑誌社と交渉の電話をするために部屋から出ていった。