呼び出されたのは事務所の会議室、あの日以来二度目に会うレドモンの彼ら。


「お疲れ様です」
「お疲れ様です」

 六人と西山さんと真菜さんが揃った。そして、そこに相馬さんが入ってきた。


「おっ、集まってるな、じゃあ昨日フラゲ分、まぁデビュー前日から予約分は出荷してるからその分の売上を発表する」



「これどれくらいが目安なんですかー?」

 真菜さんの疑問に西山さんが口を開く。

「んー、一概には言えないけど、口コミでじわじわ伸びる曲とかじゃない限り50万は欲しいところかなー」

「じゃあ行くぞー、まずはレドモン。フラゲ分の売上が……四十八万枚」

「おお、超いいじゃないですか、この調子でいけばミリオン行けそうですー。よかったですー」


「次、ブルモン……」


 固唾を飲んで相馬さんの口元に注目した。

「えー、フラゲ分の売上が……七十二万枚」
「はぁ?」

 空さんの口調がまた一段階強くなった。


「え、七十二万枚? 凄い、凄いよ」
「ふぅ、とりあえずこっちは初週でミリオンいきそうだな」
「よかったー」

 陸は数字を聞くなり机にドンと顔を伏せた。プレッシャーがかかってたのはみんな同じ。だけど陸は誰よりもプレッシャーを感じてたんだろう。曲を作ってるのも陸だし、責任感が強いところもある。

「うわー、ほんまよかった」

 龍はうっすら目に涙を浮かべてる。

 三者三様安堵の表情を見せた私達とは相反してレドモンの三人の表情は暗かった。

「な……んでだよ」

 納得いかない様子の空さん。

「まぁまだ初日だから」
「にしても……離されすぎだろ……俺の曲がダメだったのかな」
「違うよ、そうじゃない」



「あの」
「あ?」
「私達レドモンのCD買ったんです。それで思ったんですが空さんの曲は一度聞いてこれいい! ってなるタイプの曲じゃないと思うんです。聞けば聞くほどよくなって最終的には中毒になるタイプかなって……」

 はっと我に返り、しゃしゃったことを言って気を悪くしたらどうしようと慌てて取り繕う言葉を探した。

「きっと、最終的……いや、週間で既に僕らは抜かれますよ」

 だけど、陸がそう続けた。


「は?」
「空さんの音楽、聞いた時衝撃が走りました。こんな曲俺にはぜってー作れないなって。それに幸翔さんのドラムさばきも……とてもじゃないけど追いつけない」
「いやいや、君ドラム始めたのまだ最近らしいじゃん、それにしては上手いよ、センスある」
「始めた期間とか関係ないと思うんです、今実力がなかったら意味が無い」




「それ」
「はい?」
「手、見せてみ」

 陸が手をそっと開いて空さんに見せた。


「毎日忙しかっただろ、レコーディングやらジャケット撮影やら雑誌の取材にテレビにラジオ、寝る間もないくらい忙しかっただろ、その上全部初めてやることだしな」
「はぁ、でもそれはみんな同じ……」
「でも俺らは経験値が全然違うんだよ、その手、毎晩叩いてたんだろ」
「うわ、本当だ、タコが出来てるね」

 そのタコを見た楓雅さんも驚いている。




「お前らがライバルで……よかったよ」


 陸が言った通り次の日からレドモンはグングン売上を伸ばしていき、一瞬間後、ウィークリーが出る頃には完全に追い抜かれてしまった。

 ……だけど


「ブラモン百四万枚、レドモン百二十一万枚。両グループ目標達成」



 なんとか解散は免れた。



 そしてレドモンがこれだけ売上を伸ばした背景には、曲が口コミで広がった訳ではなく、元々ついていたファンや信者の数が差となって現れた。

レドモンに何としてでも勝利を! そう考えたファンの方々が一つになった結果だった。


 そう、ということはつまり……ここから口コミで更に一般層に広まるということ、すぐに再出荷が決まったみたい。


「なになに、Ryuくんかっこいい、Ryuくん付き合って欲しい、Ryuくんイケメン……はぁ、知ってるで」
「お前さ、それぜってー「Ryu イケメン」とかで検索してるだろ」
「は?」
「ちょっと「Ryu 嫌い」で検索してみようよ」
「ちょっ、やめろやー」


「ブラモン負けたねー、Mashiroのせいじゃない?」
「え?」
「Mashiroじゃなくてレドモンと同じようにもう一人イケメン入れてたら勝ってたよね」
「何見てねん」
「てかRikuと付き合ってんのかな?」
「は?」
「Ryuかも。てかレドモンにまで手出したらどうする?」
「もうやめーや」
「エゴサなんかすんなよ」


「他にも、この売り方汚すぎ、未来ある若者競わせて金稼ぎとか鬼畜すぎる、事務所も散々叩かれてるね」
「でもそれはもう……腹括っただろ」
「そうだね、叩かれるの覚悟の戦略だもんね」
「ほんなら練習するか、ファーストライブまでもう時間が無いで」