6時になり定時を知らせる音楽が鳴るとみんな一斉に仕事をやめ帰る支度をする。

私は荷物を鞄に詰めると部長の机に向かった。

机に置いてある紙に都合のいい日を書き名前を書く。

空いたスペースに一週間後の7月21日に予定ありと書いておく。

書き終えると私は鞄を持って会社を後にした。




カツン カツン

と金属の音がする階段を暗闇の中一人で上がっていく

ドアの前でカギを探してるとお隣さんに声をかけられた。

『あら、虹岡さんこんな時間に会うのは久しぶりねぇ~』

『あっ、お久しぶりです。確かに最近は昼間に会うことが多かったですもんね。』

ちなみに今は何時かというと夜の7時30分。

会社を出た後好きな作家さんの新刊を本屋で探していたからいつもより帰りが少し遅くなった。

『虹岡さんがここに引っ越してきたばかりの頃は、この時間帯によく会っていたのよね。
あの頃の虹岡さんはまだ少し幼かったけど、今じゃすっかり大人っぽくなってるじゃない。
あなたももう立派な社会人ね。』

『あ、ありがとうございます。』

大人っぽいって言われるとまだ少し照れる。

やっぱり猪飼さんは褒めるのが上手だな~と思っていると

『あー!そうそう!虹岡さんに言いたいことがあったの!』

『何かあったのですか?』

『そうなのよ!うちの孫がね。ある小説家さんの編集者をやっているのよ。
それでね、編集者だったうちの孫が小説家デビューしたのよ!』

『えぇ!?ほんとですか!?』

『そうなの!すごいでしょう!』

『本当にすごいです!』

『虹岡さんにだけ特別に教えてあげる。』

『何をですか?』

『孫の名前よ、うちの孫はね。』

『ーーーーって言うのよ。』

『えぇ!?』

『あら、知っているの?』

『はい。もちろんです!だってお孫さんは私のーーー』


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「虹岡!虹岡!」

誰かに呼ばれた声でハッと我に返る。

「ボーっとしながら歩いていたら危ないじゃないか!!」

「す、すみません。」

どうやら同じ部署の先輩が私に声をかけてくれたようだ。

「倒れたりしたら虹岡自身も危ないし周りの人にも迷惑がかかるだろう。」

「気をつけます。」

「そうしてくれ。でもどうした?最近ちゃんと眠れているか?」

「はい。なるべく早めに寝るようにしています。」

「それならいいんだが・・・虹岡もやることがあるよな、引き留めて悪かった。」

「大丈夫です。」

「もうこんな時間か、俺はこれから会議があってな。」

「そうなんですね、では私はお先に失礼します。」

「わかった。しっかり休めよ!!じゃあ、またな!」

「はい。」

休めよと私に言うと先輩は会議室に向かっていった。

資料の説明を書くために書類を探していたら、商品開発部についたころにはもう定時を過ぎていた。

荷物を鞄にまとめ、まだ仕事をしている人たちに

「お疲れ様です。お先に失礼します。」

と声をかけ部屋から出ていく。

会社の外に出ると少し風が冷たかった。

もう少したつと、冷え込みそうだったので急いで家に帰る。

最寄り駅に着くと、買おうと思っていたものを思い出し近くのショッピングモールでサクッと買い物を済ませる。

ショッピングモールから出ると、

辺りは一面真っ暗。風も冷たくなってきたので急いで家まで帰り部屋に入る。

寝る支度を済ませると私はしばらく使っていなかった机の前に座った。

「久しぶりだね。」

私はあるものにそう声をかけた。

ホコリを拭き綺麗になった机の上には少し色褪せた原稿用紙が何枚も何枚も置いてあった。

「私が高校生の時に書き上げた小説・・・」

この小説を書いてから何年もたち、当時高校生だった私は大人になった。

指先が原稿用紙に触れツーっと題名の上をなぞっていく。

「逸話。虹岡玲奈」

題名を読むと物語の世界に一気に入り込む。

「逸話。これはとある聖女と神龍の約束の物語。」

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葉っぱの匂いがする。

大地の匂いがする。

私は今、竜に乗って空から王都を見ている。

いつもとは違った景色。

人々が働き、笑い、踊っている。

今日は朝市の日。

新鮮な野菜が朝日に照らされ光り、ぽたっぽたっと落ちた雫が光によって反射して、

キラリと光る。


いつもと違った景色がね、見えてくるの。

私、今、ワクワクしてる。

地上じゃ見れないこの景色に。

あなたが守ってきたものはこんなにも素敵なものだったんだね。

神龍さん。

私は今、あなたとこの世界を見守っている。

この国を護ってる。

神龍さん、これからもよろしくね。

国を守る聖女と守護の神龍が護るこの世界はこれからも、続いていく。

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