「凛夏ちゃん?」
「あの、おとうさん……私」
口を開きかけてまごつく私を二人とも黙って待っていた。頷く沢里の存在に後押しされるように、私は頭を下げる。
「な、殴っちゃた……透流さんのこと。あの、ごめんなさい。今からちゃんと、謝りに行くから」
「殴った? 凛夏ちゃんが透流を?」
ぎょっと目を剥く義父はしばらく呆気にとられたように黙り込んでいた。
普段仕事で忙しくしている義父とはこれまで特に二人で話すこともなく当たり障りのない関係が続いていたが、実の息子を殴ったとあらば私のことを悪く思うに違いない。
顔を伏せたまま、義父の言葉を待つ。
なにを言われるか怯えていると、突然義父はぶはっと思い切り息を吹き出し笑い始めた。
「あっはっはっは!」
思いもしなかった反応に度肝を抜かれ、私は慌てて義父に詰め寄る。
「じ、冗談じゃないよ? 本当だよ? 思いっきり顎をグーでやっちゃって、眼鏡がバーンって飛んでいって……」
「ぶはっふふふ」
「おとうさん!」
挙句の果てには沢里もつられて笑い出してしまうものだから、私はその場でオロオロするしかなかった。
ひとしきり笑った後、義父は苦しげに呼吸しながら私たちに向き直り言った。
「二人ともこれから少しいいかな。沢里くん時間は平気?」
「大丈夫っす!」
困惑する私の背をぽんと叩き、沢里は元気よくその誘いに乗る。
急すぎやしないだろうか、しかしそんな心配はあっという間に意気投合する二人には不必要だったのかもしれない。