驚いてその顔を見上げると、星空を背にした沢里が背負っていたギターを手に取り音を鳴らし始める。
『Just The Two of Us』に沢里の声が乗る。それは一週間前に渡した楽譜どおりだった。
まだピアノでしか音を確認していなかったが、ギターでもいいな。なんて思っていると歌がピタリと止む。
「そうだ、ここを聞きたくて電話したんだった」
「どこ?」
「ほらここのリズム」
「ああ、ここはできれば――」
差し出された楽譜を確認すると、ふと柔らかい視線を感じた。見ると沢里がどこかほっとしたような笑顔を浮かべていて、
「涙、止まったな」
私は自分の頬に手を当てて、ようやくそのことに気が付いたのだった。
沢里は愉快げに声を上げ、また歌い出す。
沢里は不思議な人間だ。突然私の前に現れて、当たり前のようにそばにいる。その歌は私の涙さえ止めてしまった。
まるで神様が私に音楽を続けさせるために沢里を寄越したのではと疑ってしまうほどに。
認めてしまおう。沢里は私を救い上げることにおいては天才だということを。
静かな公園に響くギターとバリトン。そこに、ワンフレーズだけメロディーが重なる。
ぽかんとしたその表情を眺めながら、私はまた新たな一歩踏み出した。