パンクロッカーにふさわしい派手な衣装にメイク、耳元で銀色に輝くいくつものピアス。
その人物はパンクバンド【モルフォ】のメンバー、Masaki――言わずもがな柾輝くんである。
この姿の柾輝くんは我が兄ながら最高にクールだと思う。高校時代のジャージでゴロゴロしながら泣けるドラマを見て号泣している普段の姿とは大違いだ。
「来るなら来るって先に言えよ」
「ごめんって」
どうやらメッセージを見て慌てて出てきてくれたらしい。外で待ってる、なんて簡潔な文章に元々返信は期待していなかったが。
「ご飯連れてってよ、お兄ちゃん」
「……着替えてくる」
両親の帰りが遅い日は、柾輝くんとご飯を食べに行く。なぜこそこそとする必要があるか。その理由は私たちの母にある。
外食自体はなにも後ろ暗いことはない。事前に連絡さえしておけば、趣味と習い事と新しい父のご機嫌取りで忙しい母は私のことを気にしない。
けれど相手が柾輝くんだと事情が変わってしまう。
柾輝くんの音楽活動に反対している母は、私と柾輝くんが一緒に居ることにいい顔をしない。
売れないミュージシャンだった父に散々苦労させられたからだろう。子供に同じ道を歩ませたくないと思っているのかもしれなかった。
だからいつもこうしてお忍びで柾輝くんに突撃しているのだ。
顔を見て話したいことがたくさんあるから。