夜の繁華街はいつ来ても場違いな気持ちになる。

 日はとっくに暮れているのに肌を撫でる空気は生ぬるく、春の終わりを感じさせた。
 
 少し湿ったアスファルトをローファーで踏みしめる。

 帰路を急ぐ大人たちの波に逆らうように駅前の喧騒を抜けると、ネオンの輝く目抜き通りに出た。

 両親の帰りが遅くなることが分かっている日だけ、私はこっそりある場所へと向かう。

 表通りから一本外れた雑居ビルに混ざってぽつんと建つライブハウスの前で、まるで好きなアーティストの出待ちをするファンのように、その人が出てくるのを待つ。

 以前中に入ろうとしたら高校生NGを言い渡されてしまったため、こうして大人しく外で立っているのだ。

 防音壁を突き破るほどの歓声が上がってしばらく経った。そろそろ私のメッセージを見てくれている頃だろう。

 バタンと重い扉の開く音に、スマホを眺めていた顔を上げる。そこには待ち人の――怒り顔があった。

「制服で来るなって言ってんだろ!」

「あいたっ!!」

 ごつんと一発、脳天にゲンコツをくらう。反射でにじむ視界のその先で、ライブ後の熱冷めやらぬアーティストがじっとりとこちらを睨んでいた。