「リンカと一緒に歌えた!」
「……ただのウォームアップでしょ」
たかが一往復もない発声練習で、そこまで嬉しそうな顔をされてしまうと困る。
そう、そのたかが発声練習を最後まで歌いきれなかった事実が私の心を重く押し潰した。
「――私は今日、調子がよくないみたい。ピアノだけにするね」
「あっあのさ! だったらアレ弾いてほしい」
沢里の言うアレとは【linK】が初めて再生数ランキングに入った曲だった。
思い入れのあり過ぎる曲のリクエストにぐらりと心が揺れる。
「いいけどこれ終わったらもう帰ってよね」
「おう!」
ネットシンガーの【linK】は本当の私。【linK】の歌は私の救い。もう誰とも歌わない。【linK】こそが私だけの不可侵領域。
そう思っていたのに。
楽しそうに、嬉しそうに。私のピアノに合わせて【linK】の歌を歌う沢里が、とても眩しく見えて。
その歌声をずっと聴いていたい。なんて思ってしまったのだ。