音を立てないように階段を下りると、ふわりとみそ汁のいい香りが漂ってきた。
夜が明けたばかりなのに、キッチンの明かりがついている。
そっとキッチンへと続く扉を開けると、そこにはエプロンを着た母が背を向けて料理をしている姿があった。
「おはよう」
戸惑いつつあいさつをすると、母は首だけ振り返り朝食が並ぶダイニングテーブルを顎で示した。
「おはよう、今日早いんでしょう。ちゃんと朝ごはん食べて行きなさい」
「あ、ありがとう……」
促されるままに席に着き、いただきますを言って目玉焼きに箸を入れる。
母が食器を洗う音だけが響くのが虚しくて、私は思わず呟いていた。
「今日来てくれる?」
「……ええ」
それを聞いて満足した私は、ご飯をかきこんで食器を下げる。
例え母がどんな気持ちだろうと、見に来てくれることに意味があるのだと信じたいのだ。
「ごちそうさま!」
「もう行くの?」
「準備したらすぐに出るよ」
これから沢里の家に行って、sawaさんの車に乗せてもらい会場へ移動する。それから本番までは忙しくなるだろう。