「あ、父さん帰ってきたよ」

「おとうさん!!」

 食事の途中にも関わらず私はリビングを飛び出し、帰宅したばかりの義父に突撃した。義父は「驚いた」と言いながらもにこにこしている。

「おとうさんちょっといい?」

「はいはい」

 内緒話をするように声を潜める。

「もし、私が、音楽の、ライブに出たいって言ったら、賛成してくれますか」

「うん」

「やった! ありがとう」

 当たり前のように肯定する義父に礼を言う。

 ぴょんぴょんと玄関を跳ねていると「ライブに出たいの?」と聞かれた。

 私はまた小声になって説明する。

「そうなの。それでね、保護者の同意が必要なんだけど、お母さんに知られたくなくて……」

「おーいお母さん、凛夏ちゃんが音楽のライブに出たいって」

「うわー!! おとうさんの裏切り者―!」

 義父の呼びかけに応え、母がこちらに向かってくる。

 私はさっと義父の背中に隠れるが、いつまでたっても母の怒鳴り声は聞こえてこない。

「好きにしなさい」

「え?」

 それだけ言って母はキッチンに戻ってしまう。

 私が呆気にとられていると義父が「よかったね」と声をかけてくる。

「お母さんどうしたのかな」

「凛夏ちゃんの一言が予想以上に効いたみたいだよ」

「私の一言?」

 なにか特別なことを言っただろうか? 首を傾げると義父は笑っていた。