もう一人じゃない。泣きながら一緒に家に帰ってくれる人がいる。

 沢里の手が私の頭を撫でる度にぐちゃぐちゃに絡まった思い出が解けていく気がした。

 そう、本当の私は誰かと歌うことが好きだった。父の下手なギターに合わせて、柾輝くんと私が歌う。

 塗り潰されていた記憶が掘り起こされては涙を誘い、家に着く頃には私の顔は溶け切ったアイスのようにぐちゃぐちゃになっていた。

「息もれを治す方法を探そう」

 沢里の真剣な声に顔を上げる。

「親父にも聞いてみるよ。曲がりなりにもアーティスト歴は長いから、発声方法にも詳しいと思う」

「あ、ありがと……」

「なあリンカ。息もれが治ったら、俺と一緒に歌ってくれる?」

 その言葉に私は迷いなく頷く。やりたいことを諦めない。そう決めたのだ。

 もう自分の気持ちを誤魔化さない。私は沢里と歌いたい。

 もう一度頷く私を見て沢里は嬉しそうに目尻を垂らしていた。

「リンカには憧れを押し付け過ぎてたな」

 沢里の言うことは時々難解で、私の理解できる範囲を超えてしまうことがある。

 もう憧れてはくれないの? そう言うと沢里は「俺をどうしたいんだよ」と言って困ったように笑った。