そして、彼と結婚して一年が経った。
 千花と隼人の新居は、紫藤家の敷地内にある別邸だ。一軒家で5LDKと広く、子どもが生まれても十分な広さがある。
 ここに移り住んだときはまだ、そんな期待をしていたな、と千花は懐かしさから室内を見回した。
 一年が経った今、結婚式の日に抱いていた淡い夢はとっくに崩れ去っている。
 しかし、どうにかしたいという気持ちが消えたわけではなかった。

 時刻は二十三時過ぎ。
 玄関で音がして、千花は眠い目を擦りながら玄関に向かってぱたぱたと走った。

「おかえりなさい」
「あぁ、ただいま」
「あ、あのっ、ご飯作ったけど……」
「いらない。食べてきた」

 隼人はこちらを見ないまま、ネクタイを引き抜いた。
 彼は疲れたようにため息を漏らす。千花から必死に話しかけてはいるが、必要以上の話はしないとばかりに背を向けられてしまう。
 ぱたんとドアが閉められた音がして、隼人が自室に行ってしまったことを悟った。

「そっかぁ……」

 千花はキッチンに行き、作った料理を冷蔵庫に入れた。
 隼人が食べなかったら、翌日の自分の昼食になるだけだ。そんな生活にも慣れてしまった。
 隼人は毎日仕事が忙しく、家に帰ってこられない日もあるほどだ。
 結婚してすぐ千花は仕事をやめた。
 そして忙しい隼人のサポートをしようと意気込み、本邸からお手伝いさんに来てもらっていたのだが、隼人に手伝いを申し出ても取り付く島もなかった。
 あまりに手持ち無沙汰な時間が増えたため、料理や掃除は自分がやると申し出た。

 どうしてこんなことになったのだろう。
 これでは幼馴染みの頃の方が仲が良かったのではないかとすら思う。
 ぶっきらぼうで照れ屋なところはあるが、隼人は冷たい人じゃない。少なくとも、憎んでいるかのような冷え切った目を千花に向けることなど、昔はなかったのに。

 千花は今、隼人がなにを考えているのか、まったくわからなかった。

(明日は結婚記念日。お祝い、できないかな……)

 ケーキを作るつもりだが、きっと明日も隼人は遅く帰ってくるのだろう。
 食べてはもらえないかと思いつつも、まだわずかに期待する気持ちがあった。もしかしたら結婚記念日は覚えてくれているかもしれないと。
 このままではいけないと隼人だって思っているはず。一年の節目だ。話し合うにはいい機会だろう。
 もし結婚記念日を覚えていてくれたなら、これから夫婦としてもう少し寄り添っていけないかと提案しよう。
 高校生のころ新しい服を買っては「可愛いでしょ!? ねぇねぇ!」と迫っていたことに比べたら、話し合うくらいなんでもないはずだ。


 翌日、千花は張り切ってケーキと料理を作った。彼が好きないちごのショートケーキ。時間はたっぷりあるから、料理だって隼人の好物を揃えた。
 夕飯の時間が迫る頃、インターフォンが鳴った。

(もしかして、今日は早く帰って来られたのかな!?)