「へぇ~なんだろう……うわぁ、可愛い」

 紙袋を開けると綺麗な形をした金色のヘアクリップが入っていた。アクセサリー店で千円かそこらで売っているのとは明らかに違う。
 艶があり上品で美しい。散りばめられた宝石はもしかしなくともダイヤモンドだろうか。
 小粒ではあるが明らかにガラス玉とは違った輝きだ。裏側を見ると、千花でも知っているハイブランドの名前が小さく入っていた。

「ほらずっと前にさ、隼人が髪留めした千花のこと『可愛い』って言ってたでしょ。だから、希美に選んでもらったんだ」
「いやいや、あれは『可愛い可愛い』って私に無理矢理言わされてただけでしょ」
「そうかなぁ、本心から千花のこと可愛いって思ってるよ、きっとね」
「えぇぇ」

 まだ千花が高校生のころだろうか。
 千花は、新しい服や髪留めを買うたびに基紀や隼人に見せては、可愛いと言わせていた。
 基紀は千花がなにを着ても、当然のように「可愛いね」と言うから、隼人にそう言ってほしくて意固地になっていた部分がある。

(可愛いでしょ? 可愛いでしょ? ってしつこく聞いて、ようやく返ってきた『あぁ~可愛いんじゃねぇの。はい、可愛い可愛い』だからね……)

 幼馴染みゆえの気楽さ、若さ、無謀さだった。
 あまりに隼人に相手にされないため、千花は紫藤家に来るたびに、基紀と希美とばかり話していた。
 そろそろ彼への想いに決別すべきかと思い始めていたのだ。そんなとき遺言による結婚が決まった。

「これ、ありがとうね。すごい嬉しい。でも高くなかった? いいの?」
「なに言ってるの。結婚が決まったんだからこれくらいいいでしょ。あ、ちゃんとした二人へのお祝いは、隼人にも聞いてまたべつに用意するからね。これは千花へのプレゼント」
「うん、大事にするね」
「つけてあげるから、後ろ向いて」
「はーい」

 ソファーに腰かけた千花は、隣に座る基紀に背を向けた。
 基紀が髪をまとめてヘアクリップを通す。
 自分では見られないが、満足そうに基紀が頷いているから、おかしくはないのだろう。

「うん、可愛い」
「そう? ありがと」
「でも俺、不器用だからなぁ。あとで崩れてくるかも。そうしたら隼人に直してもらえばいいよ。可愛くおねだりしてごらん。喜ぶから」

 基紀がからかうような口調で千花の耳に顔を近づけた。小さな声でそう言われて、動揺が胸に広がる。

「そ、そんなこと、できるわけないじゃない……っ」

 乱れた髪を軽く梳きながら、基紀が笑いを漏らす。
 揶揄われた千花が真っ赤に頬を染めるのを見て楽しんでいるのだろう。これもまたいつものことであった。
 今日は基紀だけだからまだこの程度で済んでいるが、希美がいると二人揃って千花を揶揄ってくるため、たまに「この二人に恋愛相談をするんじゃなかった」と思うほどだ。