時計を見ると、朝食の準備だけで一騒動で、起きてからすでに一時間半が経っている。二人で「いただきます」と手を合わせて食事をする。

(いつもと同じ朝食なのに、美味しいな……)

 千花が望んでいた光景がここにあった。ぐっと迫り上がってくる嗚咽を呑み込むように、パンを口に運ぶ。
 千花の目が潤んでいることに気づいたのだろう。隼人が心配そうにこちらを見た。

「殻が入ってたか?」
「う、ううん……違う……ただ」
「ただ?」
「ずっと……こんな風に、過ごしたかった……っ」

 唇を震わせながら涙をこぼす千花を見て、隼人も目を潤ませた。
 向かいから手が伸びてきて、濡れた頬を拭われる。

「これから、毎日、一緒に食事をしよう。夜は一緒に食べられないこともあるかもしれないけど、その分、朝だけは必ず」
「うん」
「今日は、このあと出かけようか。どこか行きたいところはあるか?」

 行きたいところと聞かれて、千花ははっと我に返る。

「基紀お兄ちゃんのところ!」
「は?」

 隼人の機嫌が一気に悪くなる。
 それが彼の嫉妬心だとわかっていれば、なんということもなかった。

「違うってば! 離婚届の証人に名前書いてもらっちゃったから、基紀お兄ちゃんと希美ちゃんに謝らないと。大事な時期なのに」
「大事な時期?」

 隼人はまだ希美の妊娠を聞いていなかったようだ。子どもができにくいらしい、ということは言わず、妊娠の件だけを伝える。

「そうだったのか」
「二人は私の意思を尊重してくれるって言って、サインしてくれたの」
「謝るなら俺だろう。千花はなにも悪くないんだから」
「じゃあ、二人で謝りに行けばいいよ」
「あぁ、そうだな」