「あなたに決まってるじゃない! バカじゃないの!」
「は? 俺?」
ぽかんとする彼を見ていると、本当になに一つ伝わっていなかったのだと知る。
(あぁ……そりゃそうだよね……)
自分は二度目の人生を過ごしている。一度目ならまだしも、今回の結婚で彼が千花の想いを察するのは無理がある。
千花は、彼との結婚を拒絶するような態度をこの一年取り続けていた。一度目のように彼のための食事を用意することもなく、いってらっしゃい、おかえりなさいという言葉すら、ほとんどかけなかった。
休日なんてなるべく顔を合わせないように過ごしていたくらいだ。
「……私、この結婚、二度目なの」
「二度目?」
千花はすべてを打ち明けることにした。
隼人が信じてくれるかはわからない。でも、一度目の自分の努力を知ってほしかった。ただ、隼人を拒絶していたわけではないのだとわかってほしかったのだ。
「前の結婚記念日、隼人は今回とぴったり同じ時間に帰ってきた。私が『基紀お兄ちゃんにワインをもらった』って言ったら、部屋に行っちゃったの。そのとき……心が、もう限界だった。隼人とのこれからの未来に、なんの希望も抱けなくなってた」
隼人は黙って千花の話を聞いていた。
驚いてはいるようだが、千花の話をうそだと決めつけはしなかった。
「家を飛びだして……あぁ、ちょうど今くらいの時間かな。たぶん、交通事故で死んじゃった」
「死んだ?」
顔を青くした隼人に聞かれて、千花は頷いた。
「死んだはずなのに、気づいたら、結婚式だったの。綺麗だ、って言われたとき」
「あぁ……あのとき」
ショックを受けたような表情で隼人は自分の口元を手で塞いだ。泣きそうに目を潤ませ、千花の顔を真っ直ぐに見つめる。
隼人の手のひらが千花の頬に触れた。一度目でも二度目でもあり得なかった触れあいに、千花の胸がおかしな音を立てる。
「だから、今度こそ幸せになりたい、だったのか。俺は……お前が与えてくれたタイムリミットまでに、お前を幸せにできなかったんだな」
向かい側から深いため息が聞こえてくる。
隼人は手のひらを床につけると、床に擦りつけるように頭を下げた。
「ちょ……」
「すまなかった。俺は、もう二度と千花を傷つけない。そんなことを言われても、信じられないのはわかってる。だから、信じてもらえるように、今度は俺が千花に振り向いてもらえるように努力する」
隼人は顔を上げると、真っ赤な目で千花を見つめた。
そして、震える腕で千花の身体を引き寄せた。彼の身体が震えているのが、触れあったところから伝わってきた。
「さっき、千花を引き止めて、よかった……」
「さっき……? あぁ」
もし、一度目と同様に千花が家を出ていたら、また同じ結果になっていたかもしれない。そして三度目があるかどうかはわからない。
「お前を失った俺は……どれほど後悔したんだろう。千花が生きていてくれるから、俺にはやり直すチャンスがある。でも、それすらも失ったら、絶望しかない」
隼人はそう言って、ますます強く千花の身体を抱き締めた。隼人はなにかを怖がるように一晩中、千花を抱き締め続けた。手を離すことを恐れるように。
その日初めて、千花は隼人の腕の中で眠ったのだった。
「は? 俺?」
ぽかんとする彼を見ていると、本当になに一つ伝わっていなかったのだと知る。
(あぁ……そりゃそうだよね……)
自分は二度目の人生を過ごしている。一度目ならまだしも、今回の結婚で彼が千花の想いを察するのは無理がある。
千花は、彼との結婚を拒絶するような態度をこの一年取り続けていた。一度目のように彼のための食事を用意することもなく、いってらっしゃい、おかえりなさいという言葉すら、ほとんどかけなかった。
休日なんてなるべく顔を合わせないように過ごしていたくらいだ。
「……私、この結婚、二度目なの」
「二度目?」
千花はすべてを打ち明けることにした。
隼人が信じてくれるかはわからない。でも、一度目の自分の努力を知ってほしかった。ただ、隼人を拒絶していたわけではないのだとわかってほしかったのだ。
「前の結婚記念日、隼人は今回とぴったり同じ時間に帰ってきた。私が『基紀お兄ちゃんにワインをもらった』って言ったら、部屋に行っちゃったの。そのとき……心が、もう限界だった。隼人とのこれからの未来に、なんの希望も抱けなくなってた」
隼人は黙って千花の話を聞いていた。
驚いてはいるようだが、千花の話をうそだと決めつけはしなかった。
「家を飛びだして……あぁ、ちょうど今くらいの時間かな。たぶん、交通事故で死んじゃった」
「死んだ?」
顔を青くした隼人に聞かれて、千花は頷いた。
「死んだはずなのに、気づいたら、結婚式だったの。綺麗だ、って言われたとき」
「あぁ……あのとき」
ショックを受けたような表情で隼人は自分の口元を手で塞いだ。泣きそうに目を潤ませ、千花の顔を真っ直ぐに見つめる。
隼人の手のひらが千花の頬に触れた。一度目でも二度目でもあり得なかった触れあいに、千花の胸がおかしな音を立てる。
「だから、今度こそ幸せになりたい、だったのか。俺は……お前が与えてくれたタイムリミットまでに、お前を幸せにできなかったんだな」
向かい側から深いため息が聞こえてくる。
隼人は手のひらを床につけると、床に擦りつけるように頭を下げた。
「ちょ……」
「すまなかった。俺は、もう二度と千花を傷つけない。そんなことを言われても、信じられないのはわかってる。だから、信じてもらえるように、今度は俺が千花に振り向いてもらえるように努力する」
隼人は顔を上げると、真っ赤な目で千花を見つめた。
そして、震える腕で千花の身体を引き寄せた。彼の身体が震えているのが、触れあったところから伝わってきた。
「さっき、千花を引き止めて、よかった……」
「さっき……? あぁ」
もし、一度目と同様に千花が家を出ていたら、また同じ結果になっていたかもしれない。そして三度目があるかどうかはわからない。
「お前を失った俺は……どれほど後悔したんだろう。千花が生きていてくれるから、俺にはやり直すチャンスがある。でも、それすらも失ったら、絶望しかない」
隼人はそう言って、ますます強く千花の身体を抱き締めた。隼人はなにかを怖がるように一晩中、千花を抱き締め続けた。手を離すことを恐れるように。
その日初めて、千花は隼人の腕の中で眠ったのだった。