そして、一年が経った。
 今日は彼との結婚記念日だ。
 彼と自分は結局、なにも変わらなかった。夫婦でありながら他人よりも遠い夫婦生活を送っている。千花は、彼との夫婦生活を今日で終わらせることを決めていた。

(ようやく、終わる)

 千花の命日は、日付が変わり、二時間が経った頃だろうか。
 前のときと同じ日、同じ時間に基紀が訪れ、ほとんど同じ言葉で希美の妊娠を聞いた。今回はもともと知っていたため傷つきはしなかった。
 ワインをもらったが、今回、特に料理は作っていない。ケーキもだ。ワインは冷蔵庫にしまい、普通に夕飯を食べ終えた。
 風呂には入っていない。パジャマに着替えてしまったら、この部屋を出ていけなくなってしまう。

 やはり彼は夜中の一時過ぎに帰ってきた。

「おかえりなさい」
「まだ起きてたのか」

 彼は「なにか用か」とでも言いたげにこちらを見据える。うんざりしたようなその顔を、結婚してから何度見ただろう。それも今日で終わりだ。

「話があるの」
「今じゃないとだめなのか? 疲れてるんだ」

 隼人はやっぱり今回も千花を拒絶した。
 わかっていたことだ。ショックはない。

「そう長くかかる話じゃない」

 千花は用意しておいた離婚届を取りだした。

「なんだよ」
「私と離婚してほしいの」

 テーブルに離婚届を広げると、隼人の顔を見上げる。
 自分の欄は一年前にすでに書いておいた。証人欄にも、すでに二人の名前を書いてもらっている。こちらも一年前には準備していた。
 リビングのドア近くで立ち竦んでいる隼人は、疲れていると言っていた顔がうそのようだ。笑みを浮かべている千花を見て、切なく、苦しげな顔をしていた。

「私と、離婚してください」

 離婚して、と二度言ったことが気に食わなかったのか、隼人が眉を顰めた。
 持っていたビジネスバッグを乱暴に床に置き、テーブルに置かれた離婚届を引き寄せると、舌打ちをした。

「なにが不満なんだ?」
「なにが? この結婚生活に、私が満足しているとでも思う?」

 これが普通の夫婦だと思っているのだろうか。

「生活するのに十分な金は渡してる」
「へぇ、隼人にとってはそれが結婚なんだ」
「なにが言いたい?」

 隼人だって、自分たちがすぐに崩れてしまう脆い関係だと気づいているはずだ。それなのに、どうして千花を引き止めるようなことを言うのだろう。

「私は、幸せになりたいの。好きな人と結婚して、幸せになりたい。子どもだってほしい」
「じゃあ、子どもを作ればいいだろ」
「そういうことじゃないって、わからない?」

 千花が聞くと、隼人は言葉を詰まらせた。