そうだ。これは二度目《・・・》だ。どうして忘れていたのだろう。
 結婚記念日。このままではいけないと決意したあの日。隼人がどうして急に変わってしまったのかを聞いて、もし自分がなにかしてしまったのなら、関係回復のために尽力しようと決めていた。けれど結果は、散々なものだった。
 隼人の気持ちがわからず、悔しくて、どうすればいいかもわからなくて。家を飛びだした。そしてそのあと、千花は死んだのだ。

「あぁ……っ」

 千花は、ベッドに倒れ込み、口元を押さえて嗚咽を漏らした。
 一年の結婚生活が頭の中に怒濤のように頭に流れ込んでくる。
 気のせいなどではなかった。前のときも隼人はホテルに着くなり、千花への態度を変えた。そして今夜、いっさい千花に触れることなく朝を迎えるのだ。

 洗面所から音がして隼人が出てくる。思っていたよりもだいぶ早い。おそらくバスタブは使わなかったのだろう。

(私が入ったあとだと思ったから、不快だったのかもね)

 そう考えてしまうくらいには、記憶を取り戻した千花は、彼からの愛情を信じられなくなっていた。前のときはこのあと一生懸命に話しかけたのだ。

(疲れてるならマッサージでもしようか? なんてバカよね)

 彼は千花に触れられることを拒絶した。「もう寝る」そう言って、ベッドに入るなり、千花に背を向けた。
 そういえば、このツインを予約したのも隼人だ。新婚なのにダブルではない。
 最初から、千花と共寝する気はなかったのだろう。前はこれからの結婚生活を考えるのに頭がいっぱいっぱいで気づきもしなかったが。

「私、もう寝るね」

 千花は、二台のベッドのうち左側に入ると、彼に背を向けた。目を瞑っても、眠気が訪れるはずもない。

「……あぁ」

 小さく言葉が返された。
 あり得るだろうか。新婚初夜の会話が一分未満なんて。ベッドに入りながら、自嘲的な笑みが漏れる。千花は横になったまま、声も出さずに涙を流した。
 また辛い日々が続くのだろうか。どうして戻るのがこのタイミングなのだろう。結婚が決まる前に戻っていたなら、隼人と結婚など決してしなかったのに。

「千花……寝たか?」

 千花はなにも答えなかった。
 このやり取りが前回あったかどうか、もう覚えていない。
 しばらくすると部屋の電気が消され、衣擦れの音が聞こえてくる。