プロローグ
あぁ、結局こうなるのかと、千花《ちか》はため息を呑み込み、真っ直ぐに彼を見た。
彼は「なにか用か」とでも言いたげにこちらを見据える。うんざりしたようなその顔を、結婚してから何度見ただろう。
今日は千花と、夫である紫藤《しどう》隼人《はやと》の一年目の結婚記念日である。
「話があるの」
「今じゃないとだめなのか? 疲れてるんだ」
隼人はいつものように千花を拒絶した。
怜悧さが表れている横顔は、恐ろしいほどに整っていた。切れ長の目元や、真っ直ぐに通った鼻筋、肉厚の唇が完璧に配置されており、艶のある黒髪も目を引いた。
どれだけ冷たい表情をしていてもその美貌は隠しきれるものではない。千花に向ける顔は相変わらず不機嫌そのものだが、幼い頃は目がくりっとしていて笑った顔が可愛い少年だった。
かたや千花は、これほどの美丈夫に惚れられるほどの外見をしていない。
自慢にもならないが、外見で告白されたことは一度もない。よく言えば化粧映えする、悪く言えば地味な顔立ちだった。
幼馴染みとして大事にされている、過去、そう思っていた時期もあったのだが。
彼から愛を得られるなんて期待は、すでにしていない。
やはり、今世《・・》でも結果は同じ。
隼人の愛は、決して千花に向けられることはないのだ。
二度目の人生だ。
死んであの日に戻ってから、千花は決めていた。
もう忍耐強く生きるのはやめよう。
二度目は、今度こそ自分の幸せを考えよう、と──だから。
「そう長くかかる話じゃない」
「なんだよ」
千花は、自分の名前を書き終えた離婚届をテーブルに置いた。
「私と離婚してほしいの」
隼人は「疲れている」と言っていた顔がうそのように、驚いた顔で千花をまじまじと見つめていた。
まさか千花が離婚を言いだすとは思っていなかったのだろう。
千花は精一杯強がり、笑みを浮かべた。
そしてもう一度、同じ言葉を繰り返す。
「私と、離婚してください」
あぁ、結局こうなるのかと、千花《ちか》はため息を呑み込み、真っ直ぐに彼を見た。
彼は「なにか用か」とでも言いたげにこちらを見据える。うんざりしたようなその顔を、結婚してから何度見ただろう。
今日は千花と、夫である紫藤《しどう》隼人《はやと》の一年目の結婚記念日である。
「話があるの」
「今じゃないとだめなのか? 疲れてるんだ」
隼人はいつものように千花を拒絶した。
怜悧さが表れている横顔は、恐ろしいほどに整っていた。切れ長の目元や、真っ直ぐに通った鼻筋、肉厚の唇が完璧に配置されており、艶のある黒髪も目を引いた。
どれだけ冷たい表情をしていてもその美貌は隠しきれるものではない。千花に向ける顔は相変わらず不機嫌そのものだが、幼い頃は目がくりっとしていて笑った顔が可愛い少年だった。
かたや千花は、これほどの美丈夫に惚れられるほどの外見をしていない。
自慢にもならないが、外見で告白されたことは一度もない。よく言えば化粧映えする、悪く言えば地味な顔立ちだった。
幼馴染みとして大事にされている、過去、そう思っていた時期もあったのだが。
彼から愛を得られるなんて期待は、すでにしていない。
やはり、今世《・・》でも結果は同じ。
隼人の愛は、決して千花に向けられることはないのだ。
二度目の人生だ。
死んであの日に戻ってから、千花は決めていた。
もう忍耐強く生きるのはやめよう。
二度目は、今度こそ自分の幸せを考えよう、と──だから。
「そう長くかかる話じゃない」
「なんだよ」
千花は、自分の名前を書き終えた離婚届をテーブルに置いた。
「私と離婚してほしいの」
隼人は「疲れている」と言っていた顔がうそのように、驚いた顔で千花をまじまじと見つめていた。
まさか千花が離婚を言いだすとは思っていなかったのだろう。
千花は精一杯強がり、笑みを浮かべた。
そしてもう一度、同じ言葉を繰り返す。
「私と、離婚してください」