甘い香りが先生の鼻に届くと、やっと彼女は窓を閉めた。

「指が棒」

冷えて曲がらないらしい指先を尻の下に敷いた先生の横に小さな座卓を置いてから、マグカップをコトッ…と置く。

「世間や周囲に対して存分に支配的なヒーローがヒロインにだけ甘い」
「最近のマストと言えます」
「そりゃ、科学的にもいくつも何度も証明されているらしいから…女が男の支配に性的な魅力を感じるってことはね」

そこでそっと手を尻の下から引き抜いた先生は、冷たさで白くなったあとに体重で圧迫した紅白混じりの指をマグカップに掛けた。

「霊長類だから当たり前なんだけど」
「集団内の支配階層が明確なんですよね」
「そう。だから人も同じ。男の支配的な声、匂い、歩き方や動き…顔立ちまで女が好む傾向。それでも…さらに…今は、強くて自信に満ちていても、女性蔑視などは皆無のお行儀良さが女にウケる」
「先生も書いてますね、そのまんまの男」
「読まれるからね」

先生は今、その流れに逆らいたい気分のようだ。どうしようか?