女の子がまだ5歳の時、まだ誰も起きない時間。
外もまだ薄暗く、完全に明るくなっていない時間帯。

女の子はいつものように目を覚ます。

なんとなくいつもより体が重いなと感じる。
しかしゆっくりはしていられないため、無理やりにでも急いで体を起こす。

それは、昨日の夜に食べた後の食器の洗い物や、部屋の掃除をするためだ。

先ほども言ったが、女の子はまだ“5歳”だ。

ただの子供のお手伝いなどではない。
れっきとした家事を淡々とこなしている。

昨日の夜に使った食器だって、女の子が使ったわけではない。


女の子は、夜ご飯はまともに食べさせてもらったことがなかった。

なのでその使った食器は全て·····両親が使ったもの。

女の子が使ったわけでもないお皿や、お茶碗、はしに料理の際に使った油だらけのフライパン、ボウルにザルにと使ったものは全てそのまま置いてある。


「洗い物しとけよ」という意味で。


水につけておいてくれれば少しでも楽なのに、もちろんそれすらもしない。


お湯を使うなと言われていたため、冬の洗い物は手がカジカジに、赤くなりながらもやっている。

特にきついのが油物の汚れ。

冷たい水ではなかなか落ちない。
何度も何度も洗剤をつけては洗い流すを繰り返す。

だから女の子の手は、いつも荒れていた。

ハンドクリームを塗ってくれる優しい母親はいない。

自分がやると言ってくれる優しい父親もいない。


部屋の掃除だって、掃除機を使うのは禁止。
その理由はうるさいからだそうだ。

こっちは仕事で疲れて寝ているのに掃除機の音がうるさくて起きてしまうと以前、怒られたことがあった。

その時は腕を殴られたっけ?
いや、真冬の中薄着で一日中外に閉め出されていたっけ?

覚えていない。

かといって掃除をしないと怒られる。
してもしなくても怒られるなんて理不尽すぎる。

そりゃあ大人になって社会に出れば理不尽なことだらけだろう。
自分が使ってもいない食器を洗う羽目になるだろう。

でもまだ幼い子供がそんなことを覚えなくていい。

しかし女の子は覚えてしまった。
覚えざるを得なかった。

女の子はそれ以来、掃除機を使わず、家にあった小さいちりとりでざっとゴミを取ってから雑巾をかける。

雑巾はすぐには洗わず、雑巾についた、ちりとりで取りきれなかった髪の毛や固まった埃など、手で取れるものをあらかた取ってから雑巾を洗う。

そこまでちゃんとやっていた。それでも·····


「ちょっと!全然片付いてないじゃない!」
「……」

「ほんと最悪」
「……」

今日は体が重くてなかなか体がいうことを聞いてくれなくて、いつもの倍以上時間がかかってしまったため、母親が起きてくる前までに部屋の片付けが終わらなかった。
 
「目覚めわるっ」
「……」

女の子本人は気づいているのかいないのか、女の子には熱があった。
顔を見れば一目でわかるくらいに体調が悪そうだ。

それでも母親はお構いなし。

『熱だから何?』
『私には関係ない!』
『自分のことでしょ?』
『てか、自分の体調管理ぐらい自分でしたら?』

母親はそういう考えのようだ。 

熱だろうが、体調が悪かろうが、怪我をしようが、関係ない。

これらを毎日毎日、来る日も来る日も、ひたすら繰り返す───。