冬にしてはほんのり暖かい日だった。
『高梨先輩へ』
朝、下駄箱を開けると手紙があった。澄野が隣に来て手紙を覗き込む。
「えっ、高梨すごいじゃん〜!鹿谷くんから告白されたのにさらに告白?モテ期?」
「いや、これ果たし状じゃん。というか、この可愛さは女の子でしょ。」
可愛いレターセットにアンバランスの筆ペン。高校生だもんね、レターセット持ってても果たし状用の白い紙って持ってないもんね…。どこに売ってるんだ、あの紙?
『高梨先輩へ
確認したいことがあります。今日の放課後、体育館裏に来てください。』
「体育館裏ってさ…全然運動部いるよね?」
澄野がうなずく。体育館の横は柔道場だし、裏はテニス部のコートなので運動部が密集している。こういうのって人がいないところを指定するのでは…。私が眉間にシワを寄せていると、澄野が気づいて勝手に伸ばしてくる。
「澄野…今日、部活行かずに帰るわ…」
「りょうか〜い。私も彼氏と帰りたいから皇くんに鍵お願いしようかな。」
「ねぇ、普通、私の心配しない?」
澄野が全く私を心配してくれないので、私はとぼとぼと教室に向かうのだった。

放課後、約束通り体育館裏に行くと女子生徒が背を向けて仁王立ちをしていた。上靴を見ると一つ下の学年カラー。手紙の時から、もしかして、と思っていたけど予想はあっていそうだ。
「噂の転校生ちゃん…」
小さい声でつぶやく。私が来たことが分かったのか女子生徒が振り返る。そして勢いよく話し出した。
「私は鹿谷くんと同じクラスの類沢 春(るいさわ はる)です!単刀直入に聞きます‼︎高梨先輩は鹿谷くんの彼女なんですか⁉︎」
キリリと強気に上がった眉毛、目がぱっちりしていて、怒ったように尖らせた唇はぷっくりつやつや。美少女だ。こんな美少女相手に私にどうしろと言うのだ鹿谷。
「え〜っと…彼女ではないんだけど…何と言いますか…」
どうする私。この子にだけ『鹿谷は恋愛をしない』と伝える?いや、無理だ。鹿谷が秘密にしているとしたら言ってはいけない。
「はっきり言ってください!彼女じゃないならライバルですか⁉︎カフェでデートしていたのって先輩ですよね⁉︎」
美少女が詰め寄ってくる。写真にうつってるの私ってバレてるじゃん。
「写真は私とは限らなくない?顔見たの?」
「隣のクラスの皇くんが鹿谷くんに『高梨先輩とのデートどうだった?』って聞いてました!『告白して初めてのデートだな』とも言ってましたよ‼︎」
「す…皇…」
あいつは歩くスピーカーかよ。
「で!どうなんですか⁈」
胸ぐらを掴みそうな勢いの美少女に
「いや…出掛けたのは本当だけど…付き合ってはなくて…」
ギギギと顔を逸らしながら返す。あまりにも真っ直ぐ見てくるので「付き合ってるよ♡」みたいな嘘はつけそうにない。ごめん、鹿谷、私は正直者だ。
「じゃあ、高梨先輩は鹿谷くんのこと、どう思ってるんですか⁈」
「………部活の後輩。」
「ただの部活の後輩だと思ってるくせに、告白してきた鹿谷くんと出掛けたんですか⁉︎期待させるだけさせてるってことですか⁉︎この魔性の女!」
ついに胸ぐらを掴んできた。美少女、容赦ないな。好きにさせておくか…と半ば諦めていたら
「高梨先輩!」
いいタイミングなのか、悪いタイミングなのか、渦中の人が来てしまった。