絵本展は好きだ。カラフルな色合いに懐かしさ。小さい頃には気にもしなかった作者の考えや背景を辿りながら想いを馳せる。絵本以外に騙し絵もあった。2人でなにに見えるか話す。
「私さ、こういうの、コレとコレに見えるんですよ〜って言われても自分の見える方でしか見えなくってさ。」
「頭の中で自分の視点が決まっちゃってるんですね〜。」
と話しながら歩く。小さい子供も来るからか順路があるわけでもなかったのでぐるぐると見て回っていた。『展示特別記念グッズコーナー』があったので、見てみると絵本のイメージのイヤリングがあった。カラフルな色合いで少しチープにも見えるそれはおもちゃみたいだ。耳に当ててみる。
「先輩?なにそれ見せて?…かわいい。」
少し遠くにいた鹿谷が近くに来て、イヤリングを見ようと私の髪に触れ、耳にかけた。ふ、と笑いながらこちらを覗き込む。
「あ…」
近すぎる距離になんとも言えない空気が流れる。
「…あ、すみません。イヤリング、見ようとして…」
「え、あ、大丈夫!も〜びっくりしたじゃん!ね!どこにつけて行こうって感じだけど可愛いよね!」
謎の空気を早く変えたくて少し早口で話した。鹿谷はそもそも人との距離感が近い人だから、たまたまこんな感じになっただけだし。私が過剰に反応すると気をつかってしまうだろう。
「ちょっとお手洗い行ってくるね、あと飲み物いる?私、自分の無くなっちゃったから買ってくる!」
「分かりました。俺は大丈夫です。ここら辺にいますね。」
「りょうかい!」
その場を離れる。普段、男性に触れられることがないから、耳がドキドキと熱かった。

「じゅーしゅ。」
お手洗いに行った帰りに、飲み物を買いに行くと小さい男の子が自販機を見上げていた。
「ボタンが届かないの?」
しゃがみ込んで男の子に話しかける。男の子はきょとんとしたままこちらを見る。近くに親がいる様子はない。
「うーん…どれ?」
「りんごじゅーしゅ。」
ぷくぷくした指が紙パックのジュースをさす。小銭を入れて、水とリンゴジュースを買う。ジュースを男の子に渡しながら
「お父さんかお母さんに飲んでもいい?って聞くんだよ。」
と暗に両親が一緒にいるか確認する。すると男の子は
「ありがとう。やたちいね〜。」
と言う。やたちい…やさしいね、か。舌ったらずな話し方で予想するに3、4歳くらいかな。男の子が自分の後ろを見る。
「ぱぱぁ?………いない…。」
絶望したような男の子の声を聞いて、頭をかかえる。そうだよね、1人でいる時点で迷子だよね…。男の子が自分の状況に気付き、半泣きになりかけているので焦って話しかける。
「ね、お父さん、どんな人かな?一緒に探そっか!」
「あのねぇ、ぱぱぁ、めがね…うぇぇん…」
「オッケー。大丈夫。おてて繋げる?あ、ジュースは自分で持つのね。」
説明を諦めて、手を差し出す。私の手を握りながら、反対の手でジュースをしっかり掴んでいた。私は男の子に合わせて少し中腰になりながら迷子センターまでゆっくり歩くのだった。

「ありがとうございます!!!」
迷子センターに行くとスタッフの人が館内放送をしてくれた。そんなに広い建物でもないので男の子のお父さんはすぐに迎えにきた。私に勢いよくお礼を言う。
「いや…あの勝手にジュース渡しちゃったんですけど…飲むのは許可とってねって話したけど、そもそも渡しちゃって大丈夫でしたか?」
「え⁉︎かず!ジュース買ってもらったの⁉︎」
男の子、かずくんは紙パックのジュースを見せる。
「良かったね!お姉さん、本当にごめんなさい!ありがとうございます‼︎お金、渡しますね!」
お父さんが私にワタワタとお金を渡す。かずくんはもう手放さないというようにお父さんの足を掴んでいた。
「…っ、先輩!」
「あ………」
そして、迷子ではない私のお迎えも来た。鹿谷に連絡するの忘れてた…。
「迷子放送を聞いた時にもしかしてとは思いましたけど…」
はぁ、と鹿谷はため息をついた。私があまりにも遅く、心配していたときに放送を聞いて、私が迷子センターに連れて行ったのではと考えたらしい。
「だいせいか〜い…」
「高梨先輩?」
「いや、ごめんって…」
素直に謝っておく。一言連絡は入れておくべきだった。何のためのスマホだ。
「もういいです。」
「おねえたんのおともなち?けんかだめだよぉ。」
かずくんが鹿谷に言った。かずくんのお父さんがハッとして焦って謝る。
「デートの途中でしたか!時間取ってしまって、本当にごめんなさい!」
「いや!大丈夫ですし、デートとかでは…!」
「すみません。喧嘩じゃないから大丈夫ですよ。」
私と鹿谷はお父さんとかずくんに返した。お父さんはもう一度お礼を言ってかずくんを連れて行った。かずくんは抱っこされたまま、私たちに手を振っていた。かずくん親子と別れ、帰り道を歩いていると、鹿谷が私に話しかける。
「デートって言わせておけばいいじゃないですか。」
「恋人同士のお出掛けをデートって呼びたいの、私は。」
ふくれて返す。私だって少しムキになりすぎかなって思ってる。
「別に必死に言うことじゃないじゃないでしょ。そう見えたならそれで。見え方はそれぞれだし。」
「私たちって騙し絵と同じなの?」
さっき見た絵本展の話に内容を合わせてきたのが面白くて、ふは、とつい笑ってしまった。横を見ると鹿谷はこっちを見てゆるく笑っていて。『恋愛できない』鹿谷がどんな気持ちでこんな甘い笑顔になるのか。どうせ私は私の視点でしかその気持ちを量ることは出来ない。