あの日から私の周りは騒がしい。冷やかしに冷やかされ、私は疲弊していた。鹿谷は恋愛感情がないという話を人に言いふらすのは流石に良くないと思ってるせいで、この前の出来事の誤解を解くことができないままだ。否定しても照れていると思われ、私の意見はガン無視である。『人の噂も七十五日』と唱え続ける。2ヶ月以上か、長いな…。

「高梨先輩、デートしましょう。」
「ごっふ!」
「きゃっ♡」
私が飲み物を吹き出す。ティーバッグが切れてたので白湯を飲んでたのが唯一の救いだ。ちなみに「きゃっ♡」と声をあげたのは皇。なんでお前が顔を赤らめるんだ。相変わらず3人程度しか集まらない部室で騒ぎが始まる。
「デート⁉︎え!遊園地?水族館?初デートなら定番がいいのかな⁉︎」
「いや、皇が盛り上がるのはおかしいでしょ…。鹿谷も勝手にそういうの言わないで!」
自由な後輩たちを睨む。私の睨みを気にせずに皇が鹿谷の肩を組む。
「分かるぜ〜。鹿谷!恋愛を期待して、約束して出掛けるのがデートだ!付き合ってる2人が出掛けるだけがデートじゃない!デートで、つれない態度の高梨先輩を射止めようってやつだよな〜‼︎」
「はいはい。デートの定義の説明ありがとう。黙ってて。」
皇の頭をはたく。皇に肩を組まれたままの鹿谷が続ける。
「高梨先輩、駅の大通りにある超人気カフェの限定ケーキ食べたいって言ってましたよね?」
「そうだけど?奢るとか言われても無理〜。整理券がないとあそこは入れませーん。」
カフェの整理券は甘党の澄野が必死になっても手に入らなかった代物だ。ちなみに私は早々に諦めた。行かないという意志で机に突っ伏した私の目の前に鹿谷がスマホを置いた。差し出されたスマホ画面を見る。
「…は…?」
『カフェの整理券』だ。それも『限定ケーキ付』の。覗き込んだ皇が騒ぐ。
「えー!高梨先輩のために取ったってやつ⁉︎愛じゃーん‼︎」
床に転がって騒ぎ始めた皇を放置して、小声で鹿谷に話しかける。
「どういうつもり?」
「ここに一緒に行って写真を撮ってください。転校生に今週末遊ぼうと言われたので『デートをするから』と断ったら、月曜日に出掛けた写真を見せてね、と言われて。」
「いいじゃん。お出掛けくらい。転校生と行ったら?」
「適当なこと言わないでくださいよ。期待させるじゃないですか。高梨先輩こそ、お出掛けくらい俺と行ってくださいよ。」
ぼそぼそと2人で言い合う。転がり続ける皇。結果、私は鹿谷の券の分を含む限定ケーキ2種類を食べるという約束で一緒に出掛けることになった。食い意地が勝った。そして話がまとまった頃には、皇が転がっていた部分だけ床が綺麗になっていた。