先日の大仕事が終わってから写真部は静けさを取り戻していた。

「高梨先輩、相談。」
「はい、どうぞ。」
鹿谷に声をかけられたので紙コップに紅茶を淹れて、鹿谷の前に置く。自分の分はちゃっかり大きいマグカップで用意する。
「あざす。あの…なんか最近、転校生に追いかけられてて…」
鹿谷がいうには最近クラスに転校生が来たらしく、好きだと言われて、追いかけられてるらしい。それもかなり情熱的なようだ。うーん、なんとも漫画的な展開だ。
「断ってもなんか、好きでいるのは自由ですよね⁉︎って感じで…時間あれば追いかけてくるので…あんまり話しても分かってくれないし撒くのに必死で…」
「ふぅん」
「真面目に聞いてます?」
「まぁ…」
「この前の俺の恋愛観も真面目に聞いてなかったですよね。」
「いやぁ…」
聞いてはいる。相談するくらいだから、よほど困っているんだろう。相談相手は間違ってるけど。鹿谷と視線をあわせず、マグカップを手に取る。
「「…。」」
ズズッと私が紅茶を啜る音の後、お互い無言の時間が続く。気まずいな。まさかとは思うけど、相談と言いつつ何か鹿谷が不穏なことを考えている気がして、嫌な予感がする。せっかく淹れた紅茶を一気飲みしてシンクに置く。
「いや、まぁ、大変だよね。転校生ちゃんも鹿谷以外の好きな人が早く出来たらいいよね。なんなら紹介とかしてみたらどうかな、うん。皇とかおすすめ!はい、解決。」
と皇を生贄にするように口早に伝えて部室を出ようとする…が、鹿谷が動く方が早かった。バン!と私が開けようとするドアを押さえる。私が少女漫画の主人公なら「壁ドン…(胸キュン)」となっていただろう。ただ、嫌な予感を察知していた私は白目をむいていた。ドアを見ていた鹿谷が私に目をうつす。
「…高梨先輩、俺と付き合ってください。」
なるほど…。相談を持ちかけたときから鹿谷はおそらくこれを考えていた。恋人(仮)を作って諦めてもらおう大作戦だ。
「…やだなぁ、鹿谷…」
断るしかない。面倒すぎる。紅茶の一気飲みをしたせいで火傷をした口を開くと、鹿谷がたたみかける。
「高梨先輩が俺を後輩としか見てないのも知ってます…でも諦めきれないんです…」
少し切なげな顔をした鹿谷が、さも私が開けたかのようにドアを開いた。
「「「…。」」」
ドアが開いて、目の前には皇が立っていた。それはもうトップニュースを見つけたかのように、そして少女漫画の読者かのように目の前の胸キュン展開ぶりに口元に手を当て目を輝かせている。やつは自分自身含め、恋愛・青春に飢えている。終わった。皇が口を開く。
「…えっと、オレ、聞いちゃったけど!言いふらしたりはしないから!鹿谷!お前、漢だな!壁ドンで告白なんて!オレは応援してるぜー!」
ドップラー効果を感じる退場の仕方をしながら皇は立ち去っていった。
「皇が誤解したじゃん!人を好きになれないんでしょ⁉︎ちゃんと訂正してよ‼︎」
「俺、高梨先輩が好きだから付き合ってほしいとは言ってないし。付き合ってくださいって言っただけだし、誤解でもないんじゃないですか?」
焦る私に、鹿谷は意地悪く口を歪ませて笑いながら、
「これで真面目に俺の悩みに対応しなくてはいけなくなりましたね。道連れです。高梨先輩が最初から俺の相談を真摯に聞いてくれてたらなぁ。」
と言った。こいつ、この様子を皇に見せて誤解させるのが狙いだったのか。

次の日には知り合い全員に『鹿谷が高梨先輩に告白したらしい』という噂が広まっていた。皇、言いふらさないって言ったくせに、むちゃくちゃ嘘つきじゃん‼︎