後日、鹿谷が類沢さんと部室に入ってきた。
「高梨先輩、ごめんなさい!」
類沢さんが頭を下げる。
「いいよ。類沢さんは怪我してない?頭掴んじゃってごめんね?」
「そんな!庇ってくれてありがとうございました…!」
「あと…鹿谷とは…?」
類沢さんと鹿谷を交互に見る。
「俺も謝ってもらいましたよ。もう付きまとうのも辞めるって約束してくれましたし。」
頬の湿布を指差しながら鹿谷が言う。類沢さんがしょぼんと小さくなった。あんなに強気だったのに。思わず頭をなでて励ます。
「あのさ…類沢さん、可愛いし。次の恋、すぐ見つかると思うよ?」
「………。」
「えっと…。」
小さくなって下を向いているので、心配になってなでながら覗き込む。するとパッと顔をあげた。
「……あの、次の恋、見つけちゃったかもです…!」
なでていた手を両手で掴まれる。
「お姉様って呼んでもいいですか…⁈」
「ちょ、次は高梨先輩?節操ないな!」
鹿谷がベリッと類沢さんから私を引き離す。
「ちーっす!あれ?鹿谷と先輩と…類沢さん?」
「なあに?どうしたの?」
皇と澄野が部室に入ってくる。
「澄野先輩…これは間違いなく修羅場ですよ…!」
「え!私たちっていていいのかな?」
「類沢さんさぁ、高梨先輩は俺たちが後輩だから庇ってくれたんだからね?」
「その気持ちが素敵だったのよ!だいたい、次の恋に向かうことが出来そうなんだから。鹿谷くんに止められる筋合いなくない?」
好き勝手に盛り上がる2人。そして、睨み合う鹿谷と類沢さん。お祭り騒ぎと吹雪が同時に来たような空気感の部室。
「修羅場、もう終わったはずなんだけど…」
私のつぶやきは誰も聞いてなかった。
なんとか下校時間ぎりぎりに騒ぎをおさめ、それぞれ帰る。私と鹿谷は帰り道が途中まで同じなので一緒に歩いていた。
「大変だったね…。」
「はぁ…。」
あのあと、部室で皇と澄野の勘違いは盛り上がりまくり、私は修羅場ではなく、ボールから庇ったことのお礼を言いに来てくれたんだと説明していた。そして、私が勘違い組に気を取られてるうちに、鹿谷と類沢さんは言い合いがヒートアップしていき…。隣を歩く鹿谷を見る。
「いや、それさ…」
「…というか、俺、何されたんですか…?」
質問に答えずカバンを漁る。手鏡を取り出して鹿谷に向けた。
『恋敵!』
鹿谷の湿布には筆ペンでそう書かれていた。
「「………」」
「揉み合った一瞬で書いたんだから類沢さんって器用だよね…」
鹿谷が般若のような顔で湿布をひっぺがした。強い力でとったせいで頬の一部が四角く赤い。
「まぁ…駅通るし外しておいた方がいいよね…。帰ったら新しい湿布貼りなね…?」
言葉に困りながらも足を進めた。
「えぶしっ!!!」
「先輩、くしゃみ、かわいくな。」
「ほっといてよ…。」
くしゃみに文句を言われる。先日、暖かくなり春がきたかと思ったけど、まだまだ夜は寒いらしい。
「マフラー持ってきてないんですか?」
「ネックウォーマー持ってるよ。うぐ…」
カバンに入れたままのネックウォーマーを取り出し、首を通そうとしたら、ボールをぶつけた時の傷に貼ったガーゼが引っかかって痛い。そもそも傷がまだ痛い。ネックウォーマーを諦めてカバンにしまい、ふぅ…と一息つく。髪をさらりと払って、
「寒くないからしてないだけ。」
「嘘じゃないですか。」
「いや、ほんと気にしないで。すぐ家着くし。」
鹿谷があきれた顔をする。
「はい。どうぞ。」
鹿谷がつけていたマフラーを取り、ふわりと私の首にかける。
「俺の貸すんで。」
「いい、いい。私がマフラーをカツアゲしたみたいじゃん。」
「いいから。」
断るがそのままぐるぐると私の首に巻きつけてくる。ぐぇ、苦しい。
「じゃ、借りる。」
断っても引き下がりそうにないので借りることにした。満足そうな鹿谷の目の前でマフラーを少し緩める。
「とりあえず、鹿谷の転校生に追いかけられてます問題、解決ってかんじ?」
「そうですね。解決です。」
「噂はどうすんの?鹿谷、私のこと好きなままだよ?」
「皇が飽きるまでは放っておきましょう。誤解解いたら解いたでうるさそうですし。俺の片思いってことで。」
駅に着いた。私と鹿谷が一緒なのはここまでだ。
「送りましょうか?」
「そこまで暗くないから大丈夫。ありがと。」
「先輩、ん。」
鹿谷が手を出す。
「あ、マフラー。」
マフラーを取ろうとすると
「違います。」
とまたマフラーを直された。苦しいってば。
「協力者に感謝の握手、みたいな?先輩、ありがとうございました。」
「まだ半年は部活でよろしくだけどね。」
差し出された手を握る。
「あは、でも少し寂しいかも。先輩の隣の理由なくなっちゃった。先輩、後輩に人気だから。独り占め、うれしかったんだけど。」
鹿谷が眉を下げて、ふにゃりと笑うから。なんとなく、握っていた手を引っ張った。
「わっ⁉︎」
鹿谷が私の方にバランスを崩したので抱きしめる。
「今までと変わらないって!可愛いやつだな、ほんと。」
恋愛ではない。名前をつけたくない関係があってもいいじゃないか。私たちは私たちの視点で青春をしている。
「高梨先輩、ごめんなさい!」
類沢さんが頭を下げる。
「いいよ。類沢さんは怪我してない?頭掴んじゃってごめんね?」
「そんな!庇ってくれてありがとうございました…!」
「あと…鹿谷とは…?」
類沢さんと鹿谷を交互に見る。
「俺も謝ってもらいましたよ。もう付きまとうのも辞めるって約束してくれましたし。」
頬の湿布を指差しながら鹿谷が言う。類沢さんがしょぼんと小さくなった。あんなに強気だったのに。思わず頭をなでて励ます。
「あのさ…類沢さん、可愛いし。次の恋、すぐ見つかると思うよ?」
「………。」
「えっと…。」
小さくなって下を向いているので、心配になってなでながら覗き込む。するとパッと顔をあげた。
「……あの、次の恋、見つけちゃったかもです…!」
なでていた手を両手で掴まれる。
「お姉様って呼んでもいいですか…⁈」
「ちょ、次は高梨先輩?節操ないな!」
鹿谷がベリッと類沢さんから私を引き離す。
「ちーっす!あれ?鹿谷と先輩と…類沢さん?」
「なあに?どうしたの?」
皇と澄野が部室に入ってくる。
「澄野先輩…これは間違いなく修羅場ですよ…!」
「え!私たちっていていいのかな?」
「類沢さんさぁ、高梨先輩は俺たちが後輩だから庇ってくれたんだからね?」
「その気持ちが素敵だったのよ!だいたい、次の恋に向かうことが出来そうなんだから。鹿谷くんに止められる筋合いなくない?」
好き勝手に盛り上がる2人。そして、睨み合う鹿谷と類沢さん。お祭り騒ぎと吹雪が同時に来たような空気感の部室。
「修羅場、もう終わったはずなんだけど…」
私のつぶやきは誰も聞いてなかった。
なんとか下校時間ぎりぎりに騒ぎをおさめ、それぞれ帰る。私と鹿谷は帰り道が途中まで同じなので一緒に歩いていた。
「大変だったね…。」
「はぁ…。」
あのあと、部室で皇と澄野の勘違いは盛り上がりまくり、私は修羅場ではなく、ボールから庇ったことのお礼を言いに来てくれたんだと説明していた。そして、私が勘違い組に気を取られてるうちに、鹿谷と類沢さんは言い合いがヒートアップしていき…。隣を歩く鹿谷を見る。
「いや、それさ…」
「…というか、俺、何されたんですか…?」
質問に答えずカバンを漁る。手鏡を取り出して鹿谷に向けた。
『恋敵!』
鹿谷の湿布には筆ペンでそう書かれていた。
「「………」」
「揉み合った一瞬で書いたんだから類沢さんって器用だよね…」
鹿谷が般若のような顔で湿布をひっぺがした。強い力でとったせいで頬の一部が四角く赤い。
「まぁ…駅通るし外しておいた方がいいよね…。帰ったら新しい湿布貼りなね…?」
言葉に困りながらも足を進めた。
「えぶしっ!!!」
「先輩、くしゃみ、かわいくな。」
「ほっといてよ…。」
くしゃみに文句を言われる。先日、暖かくなり春がきたかと思ったけど、まだまだ夜は寒いらしい。
「マフラー持ってきてないんですか?」
「ネックウォーマー持ってるよ。うぐ…」
カバンに入れたままのネックウォーマーを取り出し、首を通そうとしたら、ボールをぶつけた時の傷に貼ったガーゼが引っかかって痛い。そもそも傷がまだ痛い。ネックウォーマーを諦めてカバンにしまい、ふぅ…と一息つく。髪をさらりと払って、
「寒くないからしてないだけ。」
「嘘じゃないですか。」
「いや、ほんと気にしないで。すぐ家着くし。」
鹿谷があきれた顔をする。
「はい。どうぞ。」
鹿谷がつけていたマフラーを取り、ふわりと私の首にかける。
「俺の貸すんで。」
「いい、いい。私がマフラーをカツアゲしたみたいじゃん。」
「いいから。」
断るがそのままぐるぐると私の首に巻きつけてくる。ぐぇ、苦しい。
「じゃ、借りる。」
断っても引き下がりそうにないので借りることにした。満足そうな鹿谷の目の前でマフラーを少し緩める。
「とりあえず、鹿谷の転校生に追いかけられてます問題、解決ってかんじ?」
「そうですね。解決です。」
「噂はどうすんの?鹿谷、私のこと好きなままだよ?」
「皇が飽きるまでは放っておきましょう。誤解解いたら解いたでうるさそうですし。俺の片思いってことで。」
駅に着いた。私と鹿谷が一緒なのはここまでだ。
「送りましょうか?」
「そこまで暗くないから大丈夫。ありがと。」
「先輩、ん。」
鹿谷が手を出す。
「あ、マフラー。」
マフラーを取ろうとすると
「違います。」
とまたマフラーを直された。苦しいってば。
「協力者に感謝の握手、みたいな?先輩、ありがとうございました。」
「まだ半年は部活でよろしくだけどね。」
差し出された手を握る。
「あは、でも少し寂しいかも。先輩の隣の理由なくなっちゃった。先輩、後輩に人気だから。独り占め、うれしかったんだけど。」
鹿谷が眉を下げて、ふにゃりと笑うから。なんとなく、握っていた手を引っ張った。
「わっ⁉︎」
鹿谷が私の方にバランスを崩したので抱きしめる。
「今までと変わらないって!可愛いやつだな、ほんと。」
恋愛ではない。名前をつけたくない関係があってもいいじゃないか。私たちは私たちの視点で青春をしている。