「ほんとだ。ぬいぐるみ、可愛い!」
丸い椅子に飾られている、丸くデフォルメされた猫のぬいぐるみを撫でていると、私の右手にふわふわと柔らかい感触が伝わってくる。
その店で、私とねねちゃんは猫のぬいぐるみを買った。
「えへへ、可愛いー」
「ほんとだね」
私たちは愛らしい猫のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
「スマホケースもあるんだなー」
目を向けると、春陽くんはその店で、猫の絵柄がついたスマホケースを買っていた。
「もしかして、春陽くんも猫が好きなの?」
「おう。可愛いしーな」
私が疑問を零すと、春陽くんは嬉しそうに答えた。
そういえば、ねねちゃんの家でも、鉢植えに置かれた猫の飾りを見ていたような気がする。
「はるくんは猫が好きなんだねー」
ねねちゃんは満面の笑みを浮かべる。
春陽くんの好きなものを知ることができて嬉しそうだ。
買い物袋を下げて、私たちはピクニック気分で広場を巡り歩いていく。
「あ……!」
その時、春陽くんが何かに気づいて、とある店へと駆け出す。
やがて、私たちのもとに戻ってくると、私とねねちゃんに猫のストラップを差し出した。
「ほら、『友情の証』」
春陽くんは戸惑う私たちに微笑む。
「俺たちがこれからもずっと、一緒にいられるようにさー。まぁ、なんていうか、願掛けみてーなもんかな」
春陽くんの切実な願いに、私とねねちゃんははっとする。
これは、あの時のはるくんと同じ、春陽くんからの特別なプレゼントなんだ。
そう思ったら、何か熱いものが私たちの胸の中を駆け抜けていった。
「うっ……うううぅぅ……春陽くん、ありがとう!!」
「うああああん!! はるくん、大好きだよー!!」
私とねねちゃんは溢れる感情のままに、春陽くんに勢いよく抱きついた。
私たちは覆い被さずのも構わず、顔を押し当てて泣きじゃくる。
「雫、ねねちゃん」
春陽くんが私たちの髪をゆっくりと撫でる。
その感触は、はるくんと同じような、甘く優しく胸を締めつける心地がした。
「てーか、勝手に選んでごめんな。こういうの、好きかと思ったんだ」
耳元で囁かれた春陽くんの声があまりにも優しすぎて、私たちはさらに涙が溢れてきそうになった。
昨年のはるくんとの想い出。
はるくんのいない明日。
でも、私たちがはるくんと出会えた過去は決してなくならない。
今を信じて、そして未来にも繋がっている。
その全てがきっと、奇跡なんだと思う。
春陽くんたちは、これまでどんな人生を歩んできたのだろう?
はるくんのことをどう思っているんだろう?
いつか、春陽くんたちの口から全てを知りたいと思った。
その遠くを見つめる瞳も、ふたりで抱えている過去も、受け止めてあげられるぐらい、強い人になりたいと切に願う。
淡い夕暮れの中、私は涙まみれの顔を上げてそう誓った。