「うん、分かった」
私は一度、呼吸を挟むと、はるくんのお母さんから説明された『共依存病』の真実をそのままなぞる。
「はるくんのお母さんはね、はるくんの――そして、秋斗くんと春陽くんのお母さんなの」
「あの人が……俺たちの母さん……」
私の突然の言葉に、春陽くんは慌てる。
「うん。はるくんは、秋斗くんと春陽くんの兄弟。そして、はるくんと春陽くんは双子の兄弟なの」
「双子……」
春陽くんの声と表情には衝撃が張り付いていた。
「ここから先はさらに信じられない話かもしれないけど……はるくんはね、実は秋斗くんと春陽くんの身体に宿っている魂の片割れ。魂の半身だったの」
「俺の魂の半身……」
春陽くんは突然に繰り出される自分たちの境遇についていけない。ぽかんと思考停止している。
春陽くんは秋斗くんのことを相方、自分の魂の片割れだと言っていた。
春陽くんにとって、秋斗くんは同じ魂を共有する存在。
でも、はるくんは魂が分かれた半身で……。
合わせ鏡のような存在だったからこそ、春陽くんとはるくんはあんなにも全てが似ていた。
「ちょっと……いや、かなり混乱している。兄弟で、俺の魂の半身。つまり、秋斗とは異なる形の……もう一人の俺ってことか」
春陽くんはだんだんと意味を理解していくに連れて、表情を曇らせていく。
それでも春陽くんは動揺を押さえつつ、言った。
「雫。はるって……どんな奴だった?」
「春陽くんそのまま。全てが春陽くんそっくりだったの」
「俺に?」
初耳ばかりの告白に、春陽くんは驚きに目を見開いた。
「桐島陽琉くん。優しくて芯の強くて、いつも太陽のように笑っていた」
後にも先にも心が壊れそうなほど、音を立てて脈打っているのを感じながら、私は言葉を続ける。
「秋斗くんが同じ魂を共有する『魂の片割れの兄弟』なら、はるくんは魂レベルで繋がっている『魂の双子』なのかもしれない」
「魂の双子か」
春陽くんは空に目を向けて、考えるような仕草をした。
「俺も陽琉に会ってみたかったな」
そう願っても、もはや、春陽くんにとって、はるくんは一番近くて一番遠い存在だ。
はるくんはもう、いないのだから――。
一年前の事故で命を失われた魂の半身、どうしても届かない遠い存在。
でも、このまま、『共依存病』が進行すれば、春陽くんもまた、その存在が消え失せてしまうだろう。