ねねちゃんは泣いていた。
私の眼下には河川敷。辺り一面にはタンポポの花が眩しいくらい咲き乱れている。
鮮やかな黄金色に包まれながら、ねねちゃんはしゃっくり混じりにタンポポの花を手で掻き分けていた。
「もう泣くなよ、ねねちゃん」
「きっと、見つかるよ。もう少し、この周辺を探してみよう」
はるくんと私が慰めても、ねねちゃんの悲しみは癒えなかった。
「だって……! はるくんがくれたブローチが……」
ねねちゃんがしゃっくり上げながら、なおも悔やむように繰り返す。
中学二年生になる前の春のある日、私たちは久しぶりに三人揃ってお出かけをしていた。
その時に、はるくんが『友情の証』として私とねねちゃんにプレゼントした。
私にはリボン。ねねちゃんにはブローチ。
『可愛いリボン、すごく嬉しい!』
『はるくん、ありがとう。一生、大事にする!』
これは、はるくんからの特別なプレゼントなんだ。
そう思ったら、何か熱いものが私の胸の中を駆け抜けていった。
だけど、その帰り道、ふとした拍子にねねちゃんが持っていたブローチを河川敷の中に落としてしまった。
三人で必死に捜したものの、見つかることはなく、八方塞がりな状態。
「そうだ。ねえ、ねねちゃんのお母さんにブローチの場所を占ってもらったらどうかな?」
「占い……?」
私が持ちかけた提案に、涙目のねねちゃんは顔を上げる。
私たちは一度、捜索を切り上げて、ねねちゃんのお母さんに相談することにした。
だけど、ねねちゃんのお母さんから告げられた占いの結果は暗号みたいな情報だけで、肝心のブローチの在り処までは分からなかった。
情報をもとにもう一度、探しても見つからず、くたくたになった私たちは途方に暮れる。
私は困り果てて、ふと先程と同じ提案が口をついて出ていた。
「ねねちゃん。もう一度、占ってもらったらきっと見つかるよ」
「しずちゃん、同じ質問を何度も占ってもらったらダメだからな」
「どうして?」
私の戸惑いを察したのか、はるくんが念押しするように言った。
「それは『その行為自体がダメってことじゃなくて、その結果に向き合えない状態が問題』なんだ」
私は意外なことを言われたように目を瞬かせる。
「だって、暗号みたいな情報だけだとねねちゃんのブローチ、どこにあるのか分からないよ」
「しずちゃん、占いはほしい答えだけをくれるものじゃないんだ。時には痛いところを突かれることもある。気分が落ちてしまうこともある」
優しく芯の強いはるくんの言葉。
あまりにも純粋な笑顔に、私は不思議な感覚に包まれた。
「同じことばかり占いなおしても、探しものの情報が定まらず、どこを探したらいいのか分からなくなる。本末転倒になって、不安に不安が積み重なってしまう」
はるくんはそこで言葉を切ると、まっすぐで偽りのない優しい眼差しを向けてくる。
「だからさ、しずちゃん、ねねちゃん。まずは最初の占いの結果を信じてみないか」
「え……?」
「最初の占いの結果……」
はるくんの絶やすことのないその笑顔は、私とねねちゃんをふわりと包み込む。
「占いとは前向きになるためのツール。占いの結果を真摯に受け止め、対策を考えて、自分なりにどうすれば最善の形になるのか考える、ということが大事だと思うんだよなー」
「……うん、そうだね。はるくん、ありがとう」
「わたしたち、もう一度、頑張って探してみる!」
じんわりと胸が温まり、私とねねちゃんの間には無意識のうちに笑みが溢れていた。
改めて、みんなで情報をもとに探し続けていると、はるくんが突如、片手を掲げて嬉しそうな声を上げる。
「ねねちゃん、あったよ、ブローチ!」
はるくんのその手には目映いブローチがあった。