「あの……これって……」
「何か……?」

物言いたげな視線を向けても、送り主であるはずの秋斗くんは怪訝そうに見つめてくる。
まるで何のことを言っているのか、分かっていないようだ。

うん。明らかにメールと現実の温度差が激しいと思う。
これってやっぱり、春陽くんと秋斗くんは本当は別人で、もしかしたら春陽くんはどこかでこっそり私たちのことを見守っているだけなのかもしれない。

「あ、あの……」

躊躇ながらも、私は訊いた。

「どうして、秋斗くんの時は感情を表に出さないの」
「父に言われたとおりにしているので」

予測できていた即答には気に払わず、本命の問いを口にする。

「あなたは本当に春陽くんなの?」
「そう伝えたはずですが」

核心に迫るその問いにも、秋斗くんは淡々と返す。

「本当に?」
「はい。演じているだけです」

全然違うよ。
まるで人が変わったみたい。
たちの悪いドッキリにでも遭っているみたいだ。
でも、視界に入る周辺には春陽くんらしき人はいない。

どういうことなんだろう?

どれだけ考えても、今の状況に納得いく説明をつけることができなかった。

「ただ……」
「ただ……?」

秋斗くんは秘密を口にするように口角を上げる。

「たまにこうして、素が出るけどなー」
「え……」

秋斗くんは静かに告げてから、私を見てにっこりと笑った。

あれ……?
星の灯のように、心にぽかんと浮かんだ『答え』に頬が熱くなる。

「もしかして……春陽くん?」
「おう。雫、どうだ」

そうして微笑んでいる姿は春陽くんみたいで妙な感慨が湧いてしまう。
複雑な心境を抱く私とは裏腹に、秋斗くんは表情を綻ばせる。

「似合わないだろ」
「確かに、秋斗くんにその話し方は似合わないかも」

そうだろうな、と笑う秋斗くんの笑顔がより眩しく思えた。

なんだ……。

先程までの心配が杞憂に過ぎなかったことを悟る。
確かに今こうして、間違いなく春陽くんは秋斗くんとしてこの世界に存在していた。
その事実は途方もなく、私の心を温める。

「でも、秋斗くん、その、声」

ちらちらとこちらを見る女子たちに気づいたらしく、秋斗くんは視線を逸らして言う。

「……篠宮さん、今の発言は忘れてください」
「えっ? あ……はい」

いつの間にか、秋斗くんの表情は一変して、無表情になっている。
切り替えが早い。
随分、キャラ作りに慣れているみたいだ。
お父さんの影響かな?