旧異世界勇者の子孫達の陰謀と新異世界勇者達!!〜ゲームにログインしたら異世界に召喚されたけど。そもそも何で召喚されたんだ?……〜

 ……クロノア(黒城 麻里亜)は、祭壇の上で目覚めた。そこは、薄暗い洞窟のような場所だ。

 眠い目を擦りながら、クロノアは辺りを見回す。

 (ん〜……ん? ここって……洞窟の中だよね)

 洞窟内には、たいまつの明かりが点り数ヶ所に置かれている。それらは、辺りを微かに照らしていた。

 (そういえば、なんでこんな所で寝てるの?)

 そうクロノアは考えている。すると洞窟の隅の方に、誰かが居ることに気づいた。

 そうそこにはゲームやアニメなどに登場するような、いかにも見た目が悪役そうな雰囲気のダークエルフの男性とデューマンの女性がいる。

 その二人は、何かを話し揉めているようだ。

 (これって夢?)

 すると目覚めたことに気づきダークエルフの男性は、クロノアへと近づいてくる。

 「目覚めたみたいだな。ん〜、でもな……ディアナ。本当に、コイツが救世主なのか?」

 どうやらデューマンの女性はディアナと言うらしい。

 「ハウベルト。そのはずだが、アタシにも分からん。なんで女なんだ?」

 そう言いながらディアナも、クロノアに近づいてきた。

 「えっと……状況がみえないんですけど??」

 「ああ、すまない。召喚しておいて、放ったらかしにしてしまったようね。アタシは、召喚魔導師のディアナ。そして、コイツは魔法騎士のハウベルト」

 「ダークエルフのイケメン魔法騎士ハウベルトとは、俺のことだ!」

 そう言った瞬間、ディアナのドロップキックがハウベルトの後頭部を直撃する。そして、ハウベルトは失神した。

 「はぁ……何を言ってるんだか。あっ、すまない。コイツはどうも美的センスがズレてる。そのためか、自分がイケてると勘違いしててね」

 「そうなのね。……それより、召喚って?」

 「ああ、話が逸れたわね。そう、アタシが召喚したの」

 そう言いディアナは、ニコッと笑みを浮かべる。

 「えっと、なんのためにですか?」

 「そうねぇ。それは、アタシ達の国を救って欲しいからなんだけど」

 ディアナはそう言うも、疑いの目でクロノアをみた。

 「ん〜、やっぱりどうみても女なんだよなぁ。召喚魔法は、間違っていないはずなんだけど?」

 ディアナはクロノアを覗き込んだ。

 「国を救うって……私がですか?」

 「本当にコイツに、国を救う力があるのか? どう考えても疑問だ!」

 「えっと、私もそう思うんですが」

 クロノアは、ふと自分が普段と違うことに気づく。

 (あれ? 私の体、ゲームの姿で召喚されてる。周囲には、なんかコマンドとステータス画面的なものが……)

 そう思いながら、ステータス画面を確認してみる。

 (それにこれって、あのゲームのレベルとステータスのままだし……名前もクロノア・マリース・ノギアになってる)

 そう思いながらクロノアは、辺りを見回したあとディアナへ視線を向けた。

 (ここが異世界なのは、間違いない。でも、救世主ってどういう事?)

 クロノアは不思議に思い色々と考える。

 するとディアナは困った顔をし、どうしたらいいかと悩んでいた。

 「ん〜長に、救世主を召喚して連れてくるようにって言われてるし」

 ディアナが自問自答しているとハウベルトは、ドロップキックの失神から目覚め提案をする。

 「ディアナは間違いなく、優れた召喚魔導師のはずだ。失敗するとも思えない」

 ハウベルトはクロノアとディアナをみた。

 「それなら、こう言うのはどうだ。この俺と勝負して勝ったなら認める。そうでなければ……そうだなぁ。ひんむくか? それとも殺すか? 奴隷にするか?」

 「えぇぇえええー!?」

 クロノアは思わず絶叫する。

 「いい加減にしないか! お前が言うと、冗談に聞こえんのだぁぁあああー!!」

 そう叫びながらディアナは、ハウベルトに目掛けて膝蹴りをした。

 するとディアナの膝蹴りが鳩尾に入りハウベルトは、余りの痛さに地べたに蹲る。

 「あはは……いっそお前が、救世主になった方がいいのではないのか?」

 そう言われディアナは、ハウベルトの顔をみて溜息をついた。

 「……こいつは、悪いヤツじゃないのだけど」

 ディアナはそう言いながらクロノアの方を向いた。

 「でも、そうね。ハウベルトが言うように、実力をみるのも手かもしれない。それに、アタシよりもハウベルトの方が戦闘に向いている」

 (なんで、こんな話になってしまったの?)

 「んー、俺でもいいが手加減はできない……大丈夫なのか?」

 そう言いながら頭を二、三回かいた。

 「本当に救世主ならば、お前でも敵わないはず」

 クロノアは殆ど話に入れず、流れで勝負することになってしまい。

 「あの〜、本当に戦うの?」

 「ええ、その方が本当に強いかを早く見極められる」

 そうディアナが言うとハウベルトは辺りを見渡す。

 「ん〜、ディアナ。ここでは、少し狭くないか?」

 (えっと、どうしよう。私はゲームの中なら、殆ど負け知らずだった。だけど、大丈夫なのかな?)

 そう考えクロノアは、どうしようかと模索している。

 (ゲーム感覚で、できるなら多分大丈夫だと思う。でもその前に、この対決って意味があるのかな?)

 色々と考えているとディアナは、あることに気づきクロノアに聞いた。

 「そう言えば、名前を聞いてなかったね」

 (えっと……今更ですか……)

 クロノアは呆た顔になりながら答える。

 「えっと……私は、クロノア・マリース・ノギアです」

 そう自己紹介すると、二人は目を丸くし驚いた。

 「あ、えっと……。余りにも長い名前で、流石に呼ぶのに困る。なんて呼べばいい?」

 ハウベルトは、汗をたらしながら困ったように言う。

 「あっ! 名前なら、なんて呼んでくれても構わないよ」

 「そもそもこの世界に、そこまで長い名前のヤツがいなかったからなぁ。……じゃ、クロノアでいいか。その方が呼び易いし」

 そうディアナに言われクロノアは頷いた。

 「いい加減、早く判断しなければ……次を召喚するにしても遅くなってしまう」

 そう言いハウベルトは、こっちだと言うような仕草でクロノアに指示する。

 そして三人は、洞窟の外へと向かったのだった。
 ここは洞窟の外の入り口付近。

 洞窟の外に出ると、クロノアは景色を眺めた。

 すると異世界なんだなぁと思うほどに、草原が広がっている。

 「さて、ここなら勝負するのに丁度いいかな」

 「フッ、クロノア。お前の腕前を披露してもらおう! 覚悟はいいか?」

 ハウベルトは剣を構えた。

 「えっと……。本当に戦うんですか? 何度も言うようですけど、余り無意味な戦いは避けたいのよね」

 「問答無用だー!!」

 ハウベルトは魔法剣で攻撃を仕掛け、クロノア目掛け剣を一閃する。

 それをクロノアは軽々と避け、仕方なくクロノアは攻撃体勢に入った。

 元々クロノアは無意味なことが嫌いだ。だけど攻撃を仕掛けてこられると、性格のせいでゲームでも大人げなく本気になってしまう。

 「あーあ……仕方ないかぁ。売られた喧嘩は、買わないと失礼だしね!」

 すると、クロノアの雰囲気と周辺の空気が一瞬で変わる。

 「そんなに戦いたいなら、やってやろうじゃないのっ!」

 ディアナは雰囲気が変わったクロノアをみて何かを悟った。

 「ハウベルトォォオオオ!! 様子が変だ気をつけろっ!」

 しかしハウベルトは、ディアナの意図がわからない。そのため、更に魔法攻撃を仕掛けてしまう。

 「えっと、私はね。凄く負けず嫌いで、面倒なことが嫌い。人付き合いも、余り好きじゃない。そして理にかなってないことも、嫌いなんだよねぇ」

 そう言うとクロノアは、下を向き不敵な笑みを浮かべる。すると、杖を前上に翳した。

 「それでさぁ……私はこんなこと、やめようって言ったよね? ……面倒だから、これ以上言わない。この魔法が効けば、一撃で終わらせる!」

 そう言い、クロノアは呪文を唱える。それもゲーム内で、最も強力な呪文を唱えた。

 《極大魔法 ファイヤーワークスっ!!》

 すると辺りが、一瞬で炎の海とかする。

 それをみたハウベルトは驚き、今の体勢じゃ無理だ逃げられないと思った。それなら攻撃で防ぐしかないと思い、剣に魔力を注いだ。

 すると螺旋を描きながら、刃の周囲を水が覆い。

 《ウォータートルネード!!》

 そう叫び剣を突き出し、水の渦を放った。一瞬、炎をかき消したかにみえたが……しかし炎の威力は予想よりも上回っている。そのため防ぎきれず、両肩に火傷を負い髪が少し焦げた。

 「マジか……こんな魔法が存在するなんて」

 「これが、この力が救世主の証」

 二人はクロノアに近づくと、ハウベルトが嬉しそうに話しかける。

 「やはり、お前は我らの救世主。そして、黒き覇王なのだな」

 「黒き覇王って? えっと、私は女なんですけどっ!!」

 クロノアは、つい叫んでしまった。

 そしてディアナとハウベルトは、何事もなかったように、クロノアに謝罪する。

 「本当に申し訳ない……我らが救世主、黒き覇王。なんなりと罰を……」

 「それならば、俺も酷い事を……何で償えばよろしいだろうか?」

 そう言われクロノアは、ついギルマスの時の調子で……。

 「そうだなぁ……今私は、凄く不愉快だしぃ。面倒だから……それなら、なんでも聞くってことで……どう?」

 すると二人は、驚き顔を見合わせる。

 「そんな罰で、いいのですか?」

 「それでいいのであれば喜んで、その罰を一生受けます!」

 そしてこの場は、なんとか切り抜けた。

 (成り行きで引き受けちゃったけど。これから、どうなるんだろう?)

 そうクロノアは考える。

 「そろそろ、長の所に向かわなければなりませんね」

 「そうだな。そろそろ行かなければ……。クロノア様、これから我が国へと参る。道中、非力ながら護衛をさせて頂きたいと思います」

 「どうしても、行かないといけないのね」

 「はい! クロノア様には、これから長に会い話を聞き国を救うと言う使命があるのですから。ここで、くすぶっている暇などありません!!」

 クロノアはこんな所でくすぶる訳がないだろうと、ツッコミたかった。だが、疲れそうだったのでやめる。

 「了解! しょうがない。なるようにしか、ならないしね」

 そう言うとクロノアは、渋々とディアナとハウベルトと共に洞窟の祭壇から旅立った。

 そしてクロノアの新たな人生、苦難はここから始まる。
 神殿の祭壇から旅立ったハクリュウ達は、近くのあかね村で休むことにした。


 ★☆★☆★☆


 ここは宿屋の部屋の中。ハクリュウは、旅の途中でシエルに聞いたことを整理している。

 (ん〜、この世界はシェルズワールドで……この国がホワイトガーデン。今から行く場所がルーンバルス城。
 そして俺は、この国を救うためにシエルに召喚された。あとは……ルーンバルスを治めているその領主に会って、詳しい話を聞かないといけない)

 そう考えながら、ハクリュウは頭を抱えた。

 (あ〜、なんか頭の中がぁ〜!! はぁ……てか、自分の状態を確認してみたけど。LV190で、ソードマスター。
 総合ステータスが830455で、アイテムもある。装備もそのまま使えるみたいだ。ただギルド無所属って……まぁ、そうなるだろうな)

 ハクリュウは、元の世界のことを思い出している。

 (そういえば……ギルドのみんなは、どうしてるかな。ギルド【ギガドラゴン】が心配だけど、現時点だと元の世界に帰れるか分からない)

 ふと窓の外に視線を向けた。

 (ふぅ、帰る方法を考えないとな。それにここは、ゲームと無関係の異世界。とにかく、今はまだ情報が不足してる……)

 そう考えていると扉が開き、荷物を抱えながらシエルが部屋の中に入ってくる。

 「あっ、起きていたのですね。明日の朝には、ここを出て王国に向かいます。ですので、必要な物を市場で買ってまいりました」

 「ありがとう、シエル。それで、何度も聞くようだけど。俺が本当に、この国を救う英雄なんだよな? まだ、信じられない」

 「間違いはありません! もしまだ信じられないのであれば、前にも言いましたが領主さまに詳しい話を聞いてくださいませ」

 シエルは困ったような顔になった。

 「あっ、ごめん。さっきから、色々と考えてて。それと本当なら俺も一緒に、市場に行けば良かったんだろうけど」

 「心遣い、ありがとうございます。ですが、お気になさらないでください」

 そう言いシエルは荷物を置く。

 「私はハクリュウ様を、無事に領主様の所までお連れしなくてはなりません」

 シエルはそう言いながら、荷物を整理し始める。

 そして荷物の整理が終えると、隣の自分の部屋へと向かった。


 ★☆★☆★☆


 ハクリュウは荷物の整理や、アイテムボックスが使えるのか確認している。

 すると、いつの間にか夜になっていた。

 (アイテムボックスは、出すことが可能。だけど、入れるのは不可能かぁ。……ってことは、出した荷物を持つしかないな)

 そう思いメニュー画面を操作しながら、試行錯誤している。

 (あと可能な方法は、プリセットが使えそうだな。ここに、装備をセットしておけばいいか。他には……)

 そうこうしているうちに眠くなり、ハクリュウはベッドに横たわった。

 その時、急に部屋のランプが消える。それに気づきハクリュウは、慌てて飛び起きた。

 するとハクリュウの目の前に、いかにも怪しい雰囲気の黒いローブを纏った女が立っている。

 「お前が白き英雄か、なるほどな。あのお方の言う通り、今のうちに始末しておいた方がよさそうだ」

 そう言い黒いローブの女は、ハクリュウに魔法攻撃を仕掛けた。

 (嘘だろう〜! なんでこんな序盤から。それに、こんな宿屋で……。攻撃できるか、まだ確認していないのに……)

 そう考えながらハクリュウは、魔法の攻撃を避けていく。

 「うっ……」

 だが全て魔法を避けきれず、ハクリュウの左腕をかすめる。

 ハクリュウは左腕を抑えながら、黒いローブの女を見据えた。

 「いきなり、いったい何のつもりで……お前は何者なんだ!」

 「これを避けるとはな。流石は白き英雄。私の名はアリスティア。お前を殺しに来た者だ」

 そう言うとアリスティアは、不適な笑みを浮かべる。

 「さて悪いが、そろそろお遊びは終わりにしよう!」

 アリスティアは攻撃体勢に入った。

 (これは、どうしても戦わなきゃならない状況。ってことか……仕方ない、やるしかないよな)
 ハクリュウは剣を構えた。

 「ほぉ……やっと、やる気になったようだな。では行くぞっ!!」

 アリスティアが魔法攻撃を仕掛けようとした瞬間。

 素早くハクリュウは動く。

 そう、剣を両手で持ち左足を一歩前にだした。そして腰の重心を落し右に捻ると、やや右後ろよりに刃を向ける。それと同時に弾みをつけ、すかさずアリスティアの懐に入った。

 《秘剣 猛牙疾風殺!!》

 そう叫び、疾風の如く薙ぎ払う。すると、獣の如き刃がアリスティアを襲った。

 それに気づくもアリスティアは避けきれず、右脚を斬りつけられて深手を負う。

 ハクリュウはその攻撃で倒せたかと思った。

 (流石にゲームのように、すんなり行くわけないよな。やっぱり……)

 「危なかった。流石だ白き英雄! 今日の所は、私の方が分が悪いようだ。では、そろそろ退散するとしよう」

 アリスティアは、部屋から出ようとする。だが、あることを思い出した。

 「そうだった。お前の名前を聞いていなかったな」

 「こんなことをしておいて今更、名前って……意味が分からない」

 そう言い一呼吸おく。

 「だけど名前ぐらいなら、教えても問題ないか。俺は、ハクリュウだ!」

 そう言うと、ハクリュウはアリスティアを睨みつける。

 「それで、この状況で逃げるって? 俺に戦い挑んで、火つけて逃げる。それって、どういう事だ!?」

 ハクリュウは、剣を鞘から抜こうとした。だがアリスティアは、魔法で剣を一時的に抜けなくする。

 「今は、まだだ! お前の実力が、どれほどのものか知りたかっただけなのでな」

 そう言いアリスティアは、嬉しそうに微かに笑みを浮かべる。

 「ここは退散し、また改めてお前を倒しにくる。まぁせいぜい、誰かに倒されないように……首を洗って待っていろ! では、さらばだ!!」

 そう言うとアリスティアは、窓から飛竜に乗り飛びたってしまった。

 ハクリュウは、ただ呆然とみていることしかできずにいる。

 そして我に返ったと同時に、アリスティアにやられた左腕が痛み出した。

 すると、シエルの声と共に扉を叩く音がしてくる。

 「ハ、ハクリュウ様!? どうなされましたか?」

 そして扉が開き、シエルが部屋の中に入ってきた。

 「やっと開きました。今、大きな音がしましたが何かあったのでしょうか? それと、扉は開かず……心配しました」

 そう言いシエルは、ハクリュウの左腕をみる。

 「はっ! その左腕は、どうされたのですか?」

 「ああ、大丈夫……かすった程度だから。ただ何者か分からないけど、アリスティアとか云う黒いローブの女に襲われた」

 「アリスティア?」

 (どこかで、聞いたような気が……)

 シエルは下を向き考えていた。

 「なんとか、殺されなかったけど。狙われた理由は、なんとなく分かった。だけど、なんで殺さなかったのか? その意味が、分からない」

 ハクリュウは、俯向き考え始める。

 するとシエルは、ハクリュウの傷口をみた。

 「これは……早く治療しないと。私の治癒魔法で、治しますね」

 そう言いシエルは、ハクリュウの左腕の傷口付近に手をあてる。

 《治癒召喚魔法 シルフのささやき!!》

 そう呪文を唱えるとハクリュウの前にシルフが現れた。

 そしてシルフは、傷口の辺りで静止しする。その後、傷口に息を吹きかけた。するとハクリュウの左腕の傷は、徐々に塞がっていく。

 「これって、凄い魔法だ。ってことは、まだみたことのない魔法や武器とか技なんかも……あるんだろなぁ」

 そう言いながらハクリュウは、これからのことを思い浮かべる。

 「俺は魔法が使えない。だけど知らない技とか覚えられたら、もっと強くなれるんだろうな」

 ハクリュウは、さっきまで不安と驚きで大丈夫なのかと思っていた。だがそれらを打ち消すかのように、新しい物に出会えると思いワクワクしている。

 「ハクリュウ様、そのアリスティアなのですが。何か言っていませんでしたでしょうか?」

 「そういえば、あのお方がとか……俺の実力を知りたいって言っていた。それと殺すとか殺さないとか、訳が分からないこともな」

 そう言いハクリュウは、その時のことを思い返した。

 「それに俺が右脚に傷を負わせると、退却しようとしていた。だから、更に攻撃しようとしたんだ。でもアリスティアの魔法で、剣が抜けなくなってな」

 「そうなのですね。やはり、ヤツらの手先かもしれません。そうなると明日、できるだけ早くここを出ましょう。そして、領主様にお会いしないといけません」

 「そうだな。そいつは俺が狙いだった。とりあえず、この国で何が起きてるのかも気になるし。それに俺も、もう少し強くならないとな」

 ハクリュウは、真剣な顔でシエルをみる。

 「今日は、もう何事もないかもしれません。ですが、万が一という事もあり得ます。心配ですので、やはり同じ部屋で寝させて頂きたいと……」

 「だっ、大丈夫だと思うから。き、気持ちだけ受け取っておく! だからシエルは、隣の部屋で寝て大丈夫だからな」

 慌ててハクリュウは、シエルを部屋から押し出した。

 「でも、それでは私の気持ちが。でも……そうですね。心配ですが……ではお言葉に甘え、隣で寝ることにします。何かありましたら、呼んで下さいませ」

 申し訳なさそうにシエルは、そう言いハクリュウをみる。

 「あっ、うん。そうだな……何かあったら起こすよ。じゃ、おやすみっ!!」

 ハクリュウはシエルを部屋から出した。すると、慌てて扉を閉める。

 (ふぅ流石に、女性と同じ部屋はまずいよな。いくら本人が良くても……)


 ★☆★☆★☆


 その頃、ホワイトガーデンのとある森林にアリスティアはいた。

 (……あのハクリュウは、思っていた以上の存在になるかもしれない。ふぅ……それにしても、避けきれたと思ったが。とりあえずポーションで回復しておくか)

 バッグからポーションを取り出して飲んだ。

 (あのお方に、ご報告しなければならない。だがあと一人、確認する必要がある。そっちが、最優先となるな)

 そう言い地面に横になる。

 (さて、今日はここで野宿をする。そして明日の朝、早く向かうとするか)

 アリスティアはその後、眠りについた。

 そして翌朝アリスティアは、あと一人の下へと向かう。


 ★☆★☆★☆


 一方ハクリュウとシエルは、朝早くあかね村を出て旅立ったのだった。
 あれから数日が経ちクロノア達は、クラフト村近郊の森林にいた。

 (引き受けたのはいいけど。なんで野宿? 私ってなんなの……どうして、こういう状況に落ちいってるのよ)

 クロノア達が、なぜ野宿しているのか。


 その理由は、数日前に遡る――……。


 クロノア達は、クラフト村に着いた。

 『やっと着いたな!』

 そう言うとハウベルトは、辺りを見渡す。

 『ここまでくれば、滅多なことでは魔物に襲われる心配などない。それはそうと……宿屋を探さないとね』

 ディアナも辺りをキョロキョロと見渡し始めた。

 『そういえば……このクラフト村は、お酒が旨いんだったよなぁ。確か?』

 ハウベルトは、ヨダレを少し垂らすと手で拭い目を輝かせる。

 『美味しい、お酒かぁ〜』

 そう言うとクロノアは、目を輝かせ唾を飲んだ。

 『クロノア様も、酒が好きなのですか?』

 『ディアナ……うん。あっちでは、よく一人で飲んでた』

 そう言ったあと、クロノアは俯いた。

 (そういえば、ゲームやりながらよく飲んでたな〜……)

 『クロノア様は、恋人や友人などとは飲まれなかったのですか?』

 ハウベルトはクロノアを覗きこんだ。

 『……』

 クロノアは下を向いたまま、ピクピクっとこめかみの辺りを引きつらせる。

 『そっ、それは……ただ一人で飲むのが好きなだけだからね!! えっと……そうそう、とりあえず宿屋を探さなきゃだよね〜』

 クロノアは誤魔化した。

 ((はぁ、いないなこれは!!))

 二人は、心の中でそう思う。そして、そのことについて追求するのをやめる。


 ★☆★☆★☆


 しばらくしてから泊まる宿をみつけた。そして、二部屋に分ける。

 『荷物は、あらかた片付いたみたいね。まだ夕食までには、時間もあるし……三人で市場とかみませんか?』

 『ディアナ、そうだね。私も色々と、揃えたい物とかあるし』

 そう言うと二人は、ハウベルトを誘い市場へと向かった。


 ★☆★☆★☆


 市場を歩いていると奥の方に、何やら賑わっている楽しげな建物があったのでクロノアは気になる。

 『あの建物って、なんのお店?』

 そう聞くとハウベルトは、嬉しそうに口を開いた。

 『あれは酒場ですよ! それに昼間でも賑わっている理由は、あの建物の中にカジノがあるからなのですよ!』

 『クロノア様は、カジノに入られたことないの? もしないのであれば、試しに入ってみない?』

 そう言い二人は、クロノアをカジノへと誘い向かう。

 (えっと……これってただ単に二人が、カジノで遊びたいだけだよね?)

 そう思いながらもクロノアは、渋々とついていった。


 ★☆★☆★☆


 それから数時間、経過する。ディアナとハウベルトはクロノアのことを忘れ、カジノに夢中になっていた。

 そんな中クロノアは一人寂しく酒場で飲んでいる。

 (はぁ〜、なんで市場に来たのにカジノで遊んでるのよ!! てか、私を忘れてるしさぁ)

 クロノアは一人で飲んでいたが、虚しくなってきた。

 (しょうがない。暇だし、私もカジノに行くか〜!!)

 そう思いクロノアは、カジノに行くことする。
 ここはカジノ。クロノアはここに来ていた。

 (とりあえずは、そうだなぁ……ポーカーでもやるかぁ)

 ポーカーのテーブルに座ろうとすると、クロノアの後ろの方で声がしてくる。

 『ちょっと、どうするんだ? もう金が底をついたんだけど!』

 そう言われハウベルトは、ムッとした表情で応えた。

 『ディアナが、みんな黒に賭けたからだろう!!』

 ハウベルトは怒鳴る。そして二人は、言い合いを始めた。

 それをみてクロノアは呆れ顔になる。

 『もしかして二人共、所持金が全部なくなったなんて言わないわよね?』

 そうクロノアが問いかけるとディアナとハウベルトは、まずいと思い俯いた。

 『ハァー……やっぱりかぁ。てかそもそも、なんでそこまでやるかなぁ』

 クロノアはそう言い頭を抱える。

 『だけど、いくらなんでも……おかしい』

 ディアナはそう言い、ルーレットのテーブルに視線を向けた。

 『ずっと黒に賭け続けてるのに、一度も勝てないのは絶対に変だ。クソッ! もう少しお金があれば』

 興奮気味にそう言いディアナは、ハウベルトを睨みみる。

 『俺が言った通りやってれば、絶対に勝てた!!』

 そう言うとハウベルトは、チラッとクロノアをみた。

 『えっとね……これは、飽くまでも運。流石に、深追いしない方がいいと思う。だけど、そうだなぁ。ディアナの言う通り、なんか変だね……私も気になる』

 『ん? 確かに言われてみればそうだな』

 ハウベルトはそう言ったあと考える。

 (これって、もしかしたら……)

 そうお思いクロノアは口を開いた。

 『私がやってみようか? ちょっと、気になることがあるから』

 『クロノア様が?』

 『うん、ディアナ。ちょっと、試したいことがあるの。ただ、できるか分からないけどね』

 そう言うとクロノアは、ルーレットのテーブルに座る。そして赤に、半分の十枚を賭けた。

  『さて、赤でいいかな?』

 そうディーラーの男性に問われクロノアは頷く。

 それを確認したディーラーの男性はルーレットを回した。するとその結果は黒だ。

 その間クロノアは、ずっとディーラーの男の手元を観察していた。

 (なるほどね。そういう事かぁ……)

 そして何かに気づき、軽く笑みを浮かべる。

 『何か分かったの?』

 『うん。まぁ、とりあえずみてて……もう一度やってみるね』

 そう言いクロノアは、左手をテーブルの下に翳して右手をテーブルの上に置いた。

 『次は、そうだなぁ……また赤でお願い』

 クロノアは残りの十枚を賭ける。

 それを確認したディーラーの男はルーレットを回した。するとクロノアはテーブルの下の左手をそのまま動かさず……。

 (《フリーズ!!》)

 と、唱えた。

 その後ルーレットが止まる間際、黒に入りそうになったのを視認する。

 (《ブリーズ!!》)

 そう唱えると思惑の通り、赤に玉が転げ落ちた。

 それをみてディーラーの男は怒りを露わにする。

 『お前、何をした!?』

 『私は、何もしてないけど?』

 クロノアはそう言い恍ける。

 『そんなはずはない! 何かしなければ……』

 『なるほどね。私は、イカサマらしき装置が下にあったから凍らせただけなんだけど』

 『イ、イカサマって……証拠があるなら言ってみろ!?』

 みえないようにディーラーの男は、左手でテーブルの下の装置らしき物を外して隠そうと手を伸ばした瞬間。

 《ウインドウ チェーン!!》

 と、クロノアは呪文を唱えた。

 ディーラーの男は、風の鎖で縛られて動けなくなる。

 『なんのつもりだ!』

 クロノアはその場から、ディーラーの男の方へと歩み寄る。そして、テーブルの下にある物を外してみせた。

 『これって何かなぁ……私、分かんないんだけど。教えてくれない?』

 そう言いクロノアは、ディーラーの男の前にあるテーブルへと装置をおく。

 『……』

 ディーラーの男は無言のまま、その装置から目を逸らした。

 『そうなんだぁ。飽くまでも、イカサマを否定するのね!』

 そう言うとクロノアは、ディーラーの男を睨みみる。

 『これって、手の込んだ魔法道具じゃないのかな? 手を翳しただけで、動く的なやつだよね』

 ディーラーの男の顔色が変わった。すると、周りの従業員もグルだったらしくクロノアへと近づいてくる。

 『フンッ、そこまで分かっていて……聞くとはな』

 そう言うとディーラーの男は、周りの従業員に指示を出した。

 『なら悪いが、このことをその辺で言われても困る。お前と、そこの二人の仲間も……一緒にお寝んねしてもらおうか!』

 するとディーラーの男と従業員たちは、クロノア達に攻撃を仕掛ける。

 ディアナとハウベルトは、なんで巻き添えになっているんだと思った。だが、仕方なく攻撃体勢に入る。

 クロノアは、すかさず杖を翳した。

 《トゥー フリーズ!!》

 そう呪文を唱えると、青い光が放たれる。そしてディアナとハウベルト以外の者を、一瞬で凍結させた。

 それを確認するとクロノア達は、長居はまずいと思いこの場を離れようとする。

 だがその時、急に辺りが光だした。するとクロノア達の目の前に、黒いローブを纏った女が立っている。

 それをみてクロノア達は、身の危険を察知し身構えた。

 『ほう……こっちは、かなり判断力があるらしい』

 そう言うと、不敵な笑みを浮かべる。

 『それなら、そっちの二人には……少しお休みしていてもらう。それに後ろの連中も面倒なので、寝ててもらった方が良さそうだな』

 黒いローブの女は、両手を目の前に翳した。

 《スリープズ!!》

 そう呪文を唱えると、クロノア以外の者たちが眠りにつき始める。

 (クッ、このままではクロノア様が……なんという事だ! アタシが、不甲斐ないせいで…………)

 (クソッ! 俺はこの状況で、何もできないのか? このままだとクロノア様が……申し訳ない…………)

 そう思うも二人は、その場で倒れ眠ってしまった。
 クロノアはディアナとハウベルトをみたあと、黒いローブを纏った女に視線を向け睨んだ。

 『ディアナ、ハウベルト!! これって、どういう事……あなたは何者なの?』

 『貴様には、関係ないって言いたいところだが。名前ぐらいは名乗っておこう。私の名はアリスティア』

 そう言いアリスティアは、クロノアに視線を向ける。

 『そしてお前の実力が知りたくて、ここに来てみた。だが面白いことになっていたので、少しみせてもらったよ』

 そう言いアリスティアは身構えた。

 『お前の力をみせてもらう……あのお方のためにな!!』

 するとアリスティアはクロノアに、魔法攻撃を仕掛けようとする。

 『あ〜、今日はなんなのよ。もう仕方ない、それなら私も……』

 そう言いながらクロノアは杖を翳した。

 《ボルティクス オブ フレイ!!》

 そうクロノアは呪文を唱える。

 すると魔法が放たれた。その魔法は、炎の渦になりアリスティアにあたる。だがアリスティアには、それほど効果がない。

 【挿絵:もけもけこけこ様作】<i421217|30410>

 『フッ……この程度の攻撃とはな。それならこれは、避けられるか?』

 そう言い放つと前に手を翳した。

 《フレームス オブ ダークネス!!》

 そうアリスティアは呪文を唱える。

 すると闇の炎が現れた。その闇の炎が、アリスティアの手から放たれる。

 その闇の炎はクロノアへと向かう。それを避けようとしたがクロノアは、アリスティアの魔法を真面にくらった。そして地面に倒れる。

 (このままじゃやられる。ん? ちょっと待って、闇の炎ってことは……)

 そう考えながら立ち上がり、体勢を立て直した。

 (もし属性耐性が存在するなら、あの攻撃が有効かも。とりあえず試す価値はあるよね)

 やられたにも拘らず、笑みを浮かべるクロノア。それに対しアリスティアは、なぜか嬉しそうである。

 『ほぅ、笑みを浮かべるとはな。余程、この状況が楽しいらしい。ならば……次はその笑みが浮かばないくらいに、痛めつけてやるまで!!』

 『クスッ、その前に……これで終わらせる!!』

 《ホーリーライト アロー!!》

 そうクロノアは呪文を唱えた。すると翳している杖が光って、魔方陣が展開される。その魔方陣から、無数の聖なる光の矢が放たれた。

 アリスティアは油断した。そのため避けきれず、一本の光る矢が直撃する。

 『クッ……こ、これは属性攻撃か。私をここまで追い詰めるとはな……まぁいい。お前の名を聞いておこう』

 アリスティアは急に態度を変え、そう問いかけた。

 そう言われクロノアは、少し調子を崩され困惑する。

 『え、えっと……あーまぁいっか。私はクロノア・マリース・ノギア……一応は、魔導師だよ。って、そういう事だから!!』

 そう言い放ちクロノアは、杖を構え直した。

 『そう慌てるな。今日は、ここまでにしておこう。だがクロノア、今のお前の実力では私には勝てないだろう。では、な!』

 『待て!? この状況で逃げるって、どういうつもり!!』

 『そう慌てるな。恐らく近い将来、嫌でも会うことになる』

 そう言われクロノアは首を傾げる。

 『それって、どういう事なの?』

 『まぁ、時期がくれば分かる。慌ててここで死ぬことはない』

 そう言いアリスティアは退却しようとした。

 だが、クロノアは納得いかない。なので、ここでアリスティアを逃がすわけにはいかないと呪文を唱え始める。

 『馬鹿が!? この状況が、お前にとって不利だと思わないとは……』

 アリスティアは頭を抱え呆れた。

 『フゥー、仕方がない。このまま退却するつもりだったが……』

 《闇極大魔法 ダークストーン ダスト!!》

 そうアリスティアが呪文を唱えると、建物の上空に魔法陣が現れる。そしてその魔法陣から、闇の石飛礫が無数に出現した。

 『悪い、そうそう構ってもいられんのでな。また会う時を楽しみに待っているぞ!』

 そしてその直後、アリスティアはそう言い消えた。

 クロノアはその場の状況が分からないまま……。

 『ちょ、ちょっと待てぇええー!!』

 そうクロノアが言った瞬間、アリスティアの魔法により酒場兼カジノの建物は崩壊する。

 ディアナとハウベルトは、そのショックで目覚めた。

 そしてクロノア達は辺りを見渡したあと、今の状況を把握する。

 三人はこのままでは大変な騒ぎになると思った。そのためお金以外の持ち物を全て抱え、その場を逃げるように街を出る。


 ★☆★☆★☆


 ……――そして現在。

 (はぁ〜、でも何者だったんだろう?)

 クロノアはその時のことを思い返していた。

 (確か、アリスティアって言ってたなぁ。闇の魔法を使ってた……。あれは、全く知らない魔法だったけど)

 そうクロノアが考え込んでいると、ハウベルトは思い出したように話し始める。

 「そう言えば、この前のアイツ。いったい何者だったんだろうな?」

 「何者かは分からない。だがそろそろ、ここから旅立ち……クロノア様には一刻も早く長に会ってもらわないと」

 ディアナはそう言いながら、夕食を手際よく作っていた。

 「そう言えば、聞いてなかったんだけど? この国の名前とかって」

 「そういえば、言っていませんでしたね」

 そう言うとディアナは、この世界の名前と国の名がブラックレギオンであること。

 そしてこれから向かう場所が、バブルスロック城であることを説明する。

 「そこに我らが長がいます。いい加減、行かないと長が怒る頃かなぁ」

 慌てたそぶりもなく、アッサリとそう言った。

 「ディアナの言う通りだ。確かに長が怒ると、大変なことになりかねないからなぁ」

 ハウベルトもアッサリと言い、それほど慌てている様子がない。

 (怒ると言いつつ、なんでそれほど慌ててないの? んーまぁいいか、考えても分からないし。
 そのうち分かるだろうから、このことはあとで考えよう。んー、野宿は嫌だけど仕方ない食べ終えたら寝るか……)

 そう考えながらクロノアは、明日の準備をした。その後、しばらくしてから眠りにつく。


 ★☆★☆★☆


 その頃アリスティアは、クラフト村付近にある洞窟内にいた。

 (クロノアか。私にここまでの、傷を負わせるとはな)

 そう思いながらアリスティアは、傷の手当てをしている。

 (それにしても異世界人とは、みんなあんな感じなのか? 白き英雄のハクリュウが剣王ならば、黒き覇王のクロノアは魔導王と言ったところか)

 傷の手当てを終えると、パッと寝袋をどこからともなく出す。

 (いずれにせよ……あのお方に報告せねばならない。明日は我が国に戻りお伝えしなくてはな)

 そしてその後、アリスティアは眠りについた。
 翌朝になり、アリスティアは空間魔法を使い自分の国へと戻った。

 アリスティアは城の門の前で門番に話しかける。

 「今、戻った。デスクラウン様に、会いたいのだが?」

 「これはアリスティア様、お帰りなさいませ。さぁ、どうぞ中へ。王がお待ちかねです」

 門番が門を開けると、アリスティアは中に入っていった。そして、デスクラウンの下へと向かう。

 アリスティアはデスクラウンが待つ書斎にくると、ハクリュウとクロノアのことを話した。

 「なるほどな。それならば、こちらも手を打たねばならん」

 「では、どんな手で迎えうちましょう?」

 すると奥の方から、一人の女性が歩み寄ってくる。

 「クスクス……それならばこちらも同じように、異世界から助っ人を召喚してみてはいかがでしょうか?」

 「これはシャナではないか。召喚か……それもいいかもしれない。デスクラウン様は、どう思われますか?」

 「ぐっわははは、それは名案かもしれん。そうなるとシャナ。お前は確か、召喚魔法が使えたな?」

 「はい、勿論使えます」

 シャナはそう言い頷いた。

 「ただ異世界の者を召喚する魔法を覚えていても、まだ使ったことはありません。ですがこの任務、私にお申し付け下さい!」

 「うむ、よかろう。だが失敗は許されん、分かっておるな?」

 「ありがたき幸せ。デスクラウン様のためであれば、必ず成功させてみせます!」

 そう言いシャナは、ニコッと微笑む。

 「召喚の祭壇が、ある場所は分かるか?」

 「アリスティア、確か遺跡の方に召喚できる祭壇があったと思いましたが?」

 「確かにあったが……シャナ。私も同行しようか?」

 そうアリスティアに聞かれて、シャナは首を横に振った。

 「いいえ、大丈夫です。あそこは魔物の数が少ないはずですので」

 「うむ、確かにそうだな。ではアリスティアは、今後のために休養をとり……その間に策を練れ。シャナは、遺跡の祭壇にて異世界人を召喚してこい。以上だ!!」

 デスクラウンはそう言うと奥に入っていく。

 アリスティアとシャナは、それを確認すると再び話し始める。

 「シャナ……くれぐれも、無理だと思ったら戻れいいな!!」

 「勿論です。でも、ご心配にはおよびません。この私が、万が一でも失敗することなど……あり得ませんので」

 そう言うとシャナは微笑んだ。

 「それはそうとアリスティアは、長旅でお疲れのご様子では?」

 「確かに、そうだな。それでは、お言葉に甘えるとするか」

 アリスティアは、城内にある自分の部屋に向かった。

 そしてその後シャナは旅の支度を整えると翌朝、遺跡の祭壇へと向かい旅立つ。


 ★☆★☆★☆


 それから数日後、シャナは遺跡の祭壇に到着し召喚魔法を唱える準備を始めたのだった。
 ここは、とあるどこかの町。そして一人の女子高生が、ブツブツ言いながら道を歩いていた。

 「にゃんで? もお〜、ハクリュウにゃんもクロノアにゃんもゲームにインしてにゃいしさぁ」

 そう言い溜息をつく。

 「ウチのギルド【グレイススピア】のライバルでありにゃがら……。ハァ、流石にあの二人がいにゃいと、張り合いがにゃいんだよにゃ〜」

 そう言うと、気が抜けた表情になる。

 「あ〜、退屈にゃんだけど……」

 この女子高生は灰麻叶恵(はいま かなえ)、十七歳。かなりのオタクでアニメや、ことゲームに関しては天才的なセンスを発揮するほどだ。

 これでも、ギルド【グレイススピア】のマスターである。

 ハンドルネームはノエル。強いギルドのマスターだが、かなりお洒落に関してうるさい。

 そしてハクリュウのギルド【ギガドラゴン】とクロノアのギルド【ブラックローズ】と並び、三強ギルドと言われ競い合っていた。


 ★☆★☆★☆


 ノエルは家に着くと夕食を食べ二階に上がり、アニメの録画予約を済ませてからパソコンの前に座る。

 (ヨシ! 流石に今日は二人共、もしくはどちらかインしてるよね)

 そう思いながらパソコンのスイッチを入れた。そして、いつものようにゲームにログインする。

 するとその瞬間、ハクリュウやクロノアと同じようなことが叶恵〈ノエル〉の身にも起こった。


 ★☆★☆★☆


 ……――目を開けると、そこには一人の女性がノエルをみている。

 「あの〜、申し訳ありません。貴女は異世界人さんですか?」

 「あのですね。いきなり言われても、にゃにがにゃんだか分からにゃいんだけど。それに私が貴女に、ここはどこかと聞きたいです」

 「あっ、これは失礼しました。ここはシェルズワールドという世界で……我が国グレイルーズにある、神秘なる遺跡の祭壇。そして、私はシャナと申します」

 「私は……」

 ノエルは一瞬、自分の本名を名乗ろうとした。だが、自分の姿や目の前のステータス画面などをみて言うのをやめる。

 そう、ゲームの姿と名前になっていることに気づいたからだ。

 名前はノエル、レベルが190。そして、ギルマスらしからぬアサシンである。

 「あっ、私はノエル。ここって、もしかして異世界にゃの?」

 そう聞くとシャナが、ノエルの手を握った。

 「そうですが。あの〜、貴女のような御子様が……本当に私たちの助っ人である異世界人なのですか?」

 シャナは首を傾げる。

 そうノエルは可愛い服が好きで、いつも子供っぽい服を身につけていた。そのうえ、アバターもツインテールにしており髪もピンク色である。

 それと可愛くみせるため、身長も低く設定していた。そのため、子供のようにみえてしまい勘違いされたのである。


 「えっと……これでも一応、私は十七歳。自分では、強いと思ってるんだけど。だから、見た目で判断しにゃいで欲しです!」

 ノエルは、少し怒り気味で言った。

 「これは失礼しました。しかし、ノエル様が本当に強いのか気になります。申し訳ありませんが、実力をみせて頂けないでしょうか?」

 そう言うとシャナは、攻撃体勢に入る。

 「……って、いきにゃり戦闘!?」

 ノエルは、仕方なく身構えた。

 シャナは杖を持ち、魔法で攻撃しようとする。

 だが瞬時にノエルは両手にナイフを持ち構えた。その後、素早くシャナの後ろに回り込んだ。

 【挿絵:もけもけこけこ様作】<i422814|30410>

 《奥義 真空の刃!!》

 風を切るように、交互に素早く斬りつける。

 シャナは一瞬のことで避ける隙もなく、背後をつかれ右腕を斬りつけられ片膝をついた。

 「うっ……これほどに強いとは、思いもよりませんでした。ノエル様は紛れもなく、灰色の守護者様です。御無礼、申し訳ありません」

 シャナはそう言うと、ポーションを飲んだ。

 その後シャナはノエルに事情を話し始める。

 「ノエル様を召喚した理由なのですが。そのことについては王に会って頂き……話を直接、聞いて頂きたいのです」

 「にゃるほど、分かったわ。それじゃ、シャナにゃん……よろしくね!」

 「はい! ノエル様、これからよろしくお願いします」

 そして二人は、少し休んだ後その場を離れグレイルーズの城へと向かったのだった。