ハクリュウは剣を構えた。

 「ほぉ……やっと、やる気になったようだな。では行くぞっ!!」

 アリスティアが魔法攻撃を仕掛けようとした瞬間。

 素早くハクリュウは動く。

 そう、剣を両手で持ち左足を一歩前にだした。そして腰の重心を落し右に捻ると、やや右後ろよりに刃を向ける。それと同時に弾みをつけ、すかさずアリスティアの懐に入った。

 《秘剣 猛牙疾風殺!!》

 そう叫び、疾風の如く薙ぎ払う。すると、獣の如き刃がアリスティアを襲った。

 それに気づくもアリスティアは避けきれず、右脚を斬りつけられて深手を負う。

 ハクリュウはその攻撃で倒せたかと思った。

 (流石にゲームのように、すんなり行くわけないよな。やっぱり……)

 「危なかった。流石だ白き英雄! 今日の所は、私の方が分が悪いようだ。では、そろそろ退散するとしよう」

 アリスティアは、部屋から出ようとする。だが、あることを思い出した。

 「そうだった。お前の名前を聞いていなかったな」

 「こんなことをしておいて今更、名前って……意味が分からない」

 そう言い一呼吸おく。

 「だけど名前ぐらいなら、教えても問題ないか。俺は、ハクリュウだ!」

 そう言うと、ハクリュウはアリスティアを睨みつける。

 「それで、この状況で逃げるって? 俺に戦い挑んで、火つけて逃げる。それって、どういう事だ!?」

 ハクリュウは、剣を鞘から抜こうとした。だがアリスティアは、魔法で剣を一時的に抜けなくする。

 「今は、まだだ! お前の実力が、どれほどのものか知りたかっただけなのでな」

 そう言いアリスティアは、嬉しそうに微かに笑みを浮かべる。

 「ここは退散し、また改めてお前を倒しにくる。まぁせいぜい、誰かに倒されないように……首を洗って待っていろ! では、さらばだ!!」

 そう言うとアリスティアは、窓から飛竜に乗り飛びたってしまった。

 ハクリュウは、ただ呆然とみていることしかできずにいる。

 そして我に返ったと同時に、アリスティアにやられた左腕が痛み出した。

 すると、シエルの声と共に扉を叩く音がしてくる。

 「ハ、ハクリュウ様!? どうなされましたか?」

 そして扉が開き、シエルが部屋の中に入ってきた。

 「やっと開きました。今、大きな音がしましたが何かあったのでしょうか? それと、扉は開かず……心配しました」

 そう言いシエルは、ハクリュウの左腕をみる。

 「はっ! その左腕は、どうされたのですか?」

 「ああ、大丈夫……かすった程度だから。ただ何者か分からないけど、アリスティアとか云う黒いローブの女に襲われた」

 「アリスティア?」

 (どこかで、聞いたような気が……)

 シエルは下を向き考えていた。

 「なんとか、殺されなかったけど。狙われた理由は、なんとなく分かった。だけど、なんで殺さなかったのか? その意味が、分からない」

 ハクリュウは、俯向き考え始める。

 するとシエルは、ハクリュウの傷口をみた。

 「これは……早く治療しないと。私の治癒魔法で、治しますね」

 そう言いシエルは、ハクリュウの左腕の傷口付近に手をあてる。

 《治癒召喚魔法 シルフのささやき!!》

 そう呪文を唱えるとハクリュウの前にシルフが現れた。

 そしてシルフは、傷口の辺りで静止しする。その後、傷口に息を吹きかけた。するとハクリュウの左腕の傷は、徐々に塞がっていく。

 「これって、凄い魔法だ。ってことは、まだみたことのない魔法や武器とか技なんかも……あるんだろなぁ」

 そう言いながらハクリュウは、これからのことを思い浮かべる。

 「俺は魔法が使えない。だけど知らない技とか覚えられたら、もっと強くなれるんだろうな」

 ハクリュウは、さっきまで不安と驚きで大丈夫なのかと思っていた。だがそれらを打ち消すかのように、新しい物に出会えると思いワクワクしている。

 「ハクリュウ様、そのアリスティアなのですが。何か言っていませんでしたでしょうか?」

 「そういえば、あのお方がとか……俺の実力を知りたいって言っていた。それと殺すとか殺さないとか、訳が分からないこともな」

 そう言いハクリュウは、その時のことを思い返した。

 「それに俺が右脚に傷を負わせると、退却しようとしていた。だから、更に攻撃しようとしたんだ。でもアリスティアの魔法で、剣が抜けなくなってな」

 「そうなのですね。やはり、ヤツらの手先かもしれません。そうなると明日、できるだけ早くここを出ましょう。そして、領主様にお会いしないといけません」

 「そうだな。そいつは俺が狙いだった。とりあえず、この国で何が起きてるのかも気になるし。それに俺も、もう少し強くならないとな」

 ハクリュウは、真剣な顔でシエルをみる。

 「今日は、もう何事もないかもしれません。ですが、万が一という事もあり得ます。心配ですので、やはり同じ部屋で寝させて頂きたいと……」

 「だっ、大丈夫だと思うから。き、気持ちだけ受け取っておく! だからシエルは、隣の部屋で寝て大丈夫だからな」

 慌ててハクリュウは、シエルを部屋から押し出した。

 「でも、それでは私の気持ちが。でも……そうですね。心配ですが……ではお言葉に甘え、隣で寝ることにします。何かありましたら、呼んで下さいませ」

 申し訳なさそうにシエルは、そう言いハクリュウをみる。

 「あっ、うん。そうだな……何かあったら起こすよ。じゃ、おやすみっ!!」

 ハクリュウはシエルを部屋から出した。すると、慌てて扉を閉める。

 (ふぅ流石に、女性と同じ部屋はまずいよな。いくら本人が良くても……)


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 その頃、ホワイトガーデンのとある森林にアリスティアはいた。

 (……あのハクリュウは、思っていた以上の存在になるかもしれない。ふぅ……それにしても、避けきれたと思ったが。とりあえずポーションで回復しておくか)

 バッグからポーションを取り出して飲んだ。

 (あのお方に、ご報告しなければならない。だがあと一人、確認する必要がある。そっちが、最優先となるな)

 そう言い地面に横になる。

 (さて、今日はここで野宿をする。そして明日の朝、早く向かうとするか)

 アリスティアはその後、眠りについた。

 そして翌朝アリスティアは、あと一人の下へと向かう。


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 一方ハクリュウとシエルは、朝早くあかね村を出て旅立ったのだった。